【意味怖】意味がわかると怖い話まとめ

【意味怖】意味がわかると怖い話を読んで頭の体操を!捉え方は人それぞれであり、答えは一つであるとは言えません。解説も答えではなく、一つの捉え方。あなたがどう捉えたかを教えていただけると幸いです。


【意味怖】味噌汁の味

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このところ毎朝、
志津子は台所に立つと涙がこぼれそうになる。

 

今朝もまた、
英二の非難に耐えなければならない…。

 

「志津子さん、違うんだよ。
死んだ女房の味噌汁は、こんな味じゃないんだ。
もっとこくが深いというか奥行きがあるというか。
とにかく違うんだなあ。
だしや味噌は同じなんだろう?
どうしてできないのかねえ」

 

「お義父さん、そんな…」

 

まったく理不尽な注文だった。

 

志津子が今の夫と結婚したのは半年前。

 

結婚してからは、
夫とその父である英二と三人で暮らしている。

 

英二の妻は5年前にこの世を去った。

 

だから志津子は英二の妻に会ったことも、
ましてや彼女の味噌汁を味わったこともない。

 

その味を再現しろといわれても
戸惑うしかなかった。

 

英二の小言はそれだけではない。

 

掃除が雑だの、
言葉遣いがなってないだの、
細かいことにうるさかった。

 

夫によると、
英二は死んだ妻にも同様に厳しかったそうだが、
彼女は愚痴ひとつこぼさず
英二の言うことを聞いていたという。

 

志津子はそんな彼女を密かに尊敬していた。

 

「はあ…」

 

志津子はため息をつきながらネギを刻んでいた。

 

夫は昨日から出張で、
今朝は英二と2人。

 

気詰まりな朝だった。

 

以前夫に、
英二の妻の味噌汁の味をきいた。

 

「俺は朝はいつもパンにしてもらってたからなあ。
でもそんな大した味噌汁じゃなかったと思うよ。
つくったおふくろ自身ほとんど飲んでなかったし」

 

これでは頼りにならない。

 

…ふと包丁を持つ手が止まった。

 

台所の隅に置いてある殺虫剤のスプレー缶が目に入ったのだ。

 

何を考えてるの。だめよ。だめ。

 

しかし志津子は
気づくとスプレー缶を手にしていた。

 

居間の英二を振り返ると、
彼はテレビに見入っている。

 

志津子の右手が別の生き物のように動いた。

 

シュッーという音とともに
味噌汁の表面がかすかに濁る。

 

志津子はさっとかき混ぜた。

 

たかが殺虫剤だもの。

 

このくらいの抵抗はいいじゃない。

 

英二が食卓についた。

 

志津子が味噌汁を差し出すと、
英二はいつものように品定めをするような視線を味噌汁に向け、
ひと口すすった。

 

反応はいつもとは違った。

 

英二は眉をぴくぴくと動かし、

 

「うう…」

 

といううめき声をあげた。

 

「し、志津子さん、あんた、やりやがったな…」

 

志津子はその場から逃げ出そうとしたが、
体が動かなかった。

 

英二は言った。

 

「これだったんだよ。
私の求めていた味は。
志津子さん、とうとうやったな…」

 

 

【解説】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

死んだ奥さんも味噌汁に殺虫剤を入れていた。

 

愚痴ひとつこぼさなかったのは

そういう抵抗をしていたから。

 

これからは常に殺虫剤を入れた味噌汁を飲ませることになるだろう。

 

 

それにしても、

殺虫剤で味に深みが出るのだろうか…?

 

味覚がおかしいのだろうけど、

試したことがないからなんとも言えないところ。

 

試す日がくることなんてないが…。