通勤途中、駅前を歩いていたら
帽子を深く被った男が俺の横をすり抜けていった…
最近、この近辺でスリが多発している事を聞いていた俺は
上着のポケットを確かめた…
財布が無い!やられた!
俺はすぐにさっきの男を追いかけた…
俺に気づいた男は逃げたが、
俺は必死に追いかけて、
路地裏に追い詰める事ができた…
俺は男に財布を返すよう迫った。
俺はかなり興奮していたので言葉になっていなかったが、
俺の迫力に負けたのか男は財布を差し出すと一目散に逃げていった…
スリは逃がしてしまったが、
財布は取り戻したんだからいいか…
警察に届けるのも面倒だし…
おっと遅刻してしまう…
慌てて駅前に戻ると、
家に居るはずの息子がいた…
どうしたんだ?と聞くと
息子はこう言った…
「パパに忘れ物を届けに来たの♪」
………
俺は警察に出頭する事を決めた…
【解説】
語り手は家に財布を忘れてきていた。
つまり、スリに盗まれたわけではない。
語り手がスリだと思った相手は特に何もしていなかったが、
相手は財布を差し出してきた。
この財布は相手のもの。
語り手は無意識に恐喝をしていた。
取り戻した財布の見た目は語り手と同じものだったのだろうか…
受け取っても気づかないなんて。
息子が届けてくれた財布を見て、
自分がやってしまったことを知り、
自首することに決めた。
これってどういう罪になるのだろうか…?
きちんと財布が相手の手に渡り、
そこから思いがけず親友のような関係になればいいな、と思っているのだが、
語り手に恐怖を感じているだろうし、
さすがにそういう関係になるのは難しいか…