ある春先の出来事。
仕事を終え、
帰宅すると妻が玄関先で出迎えてくれ一言こういった。
「お帰りなさい。私ね、子供ができたの!」
「本当か?!」
私は喜びのあまり思わず妻の細い体を抱きしめた。
私たち夫婦は長年子供を授かることが出来ずに悩んでいたのだ。
感激のあまり私は頬を涙で濡らした。
それを見た妻の目からも一筋の涙が流れた。
「さっそくお祝いをしなくちゃな」
「もう用意してあるわ」
上着を脱ぎながらリビングに向かうと
食卓には食べきれないほどのご馳走が並べられている。
私は最高の気分でご馳走に舌鼓を打つ。
普段は小食で、
あまりご飯を食べない妻も今日は忙しそうにご馳走を口に運んでいる。
「君がそんなに食べるなんて珍しいね」
「だって今日からは二人分のご飯を食べなくっちゃいけないもの」
そう言って笑う妻の顔がどこか寂しげに見えたのは私の思い過ごしだろうか?
【解説】
ある春先の出来事
この日はエイプリールフール。
そのため、妻が言ったことは嘘である。
少食の妻はこれから信じてしまった夫を失望させないために
毎日2人分を食べ、
妊娠したかのような体になっていくだろう…
きっと、その間に本当に妊娠して欲しいと願いながら…