これまでに何度か九死に一生を体験してきた。
道を歩いているとビルの上の階から飛び降り自殺を図った女性が目の前に落ちてきたり、
通勤ラッシュ時の電車待ちのホームで後ろから押されたり、
建設途中の鉄板が落ちてきたり。
どれも一つ間違えれば死んでいてもおかしくないようなことが、
立て続けに起きた。
今回は轢き逃げだ。
轢かれたのは当然俺だ。
気が付くと病院のベッドに寝ていた。
幸い右足、右腕の骨折だけで済んだ。
夕方、カノジョがお見舞いに来てくれた。
職場で知り合ったのが今のカノジョだ。
カノジョの友人が飛び降り自殺をしたせいか、元気がなかったので、
声をかけたのが出会いのきっかけだった。
カノジョは優しく、ショックから立ち直ったのか、
今では良く笑顔を見せてくれるようになった。
『体の具合、大丈夫?』
俺の為に親身になって心配してくれるカノジョと出会えてとても幸せだ。
カノジョとの会話はあっという間に感じ、
面会時間の終わりを迎えた。
『じゃあね』
ベッドから離れるカノジョ。
その後ろ姿を見ていると、
いつものカノジョの口癖の舌打ちが聞こえた。
相変わらず可愛いな。
早く退院しないとな。
【解説】
『通勤ラッシュ時の電車待ちのホームで後ろから押されたり』
『建設途中の鉄板が落ちてきたり』
『今回は轢き逃げだ』
これらは全てカノジョが行ったこと。
『カノジョの口癖の舌打ち』
は
「語り手がなかなか死なない」
ということに対する苛立ちである。
語り手は鈍感すぎ、と思うところはあるものの、
実際にこの状況を体験したら
「カノジョが自分の命を狙っている」
なんて考えるものだろうか…?
この状況になってみないとわからないものである…
ちなみにカノジョが語り手を殺そうとしている理由は
『道を歩いているとビルの上の階から飛び降り自殺を図った女性が目の前に落ちてきたり』
これを突き落としたのがカノジョで、
カノジョは語り手に顔を見られたと思ったから殺そうとしている。