「御免っ!」
31日、
さぁこれから出かけるぞ!
という時に突然、
友人から謝罪の連絡がきた。
その友人とは、
初日の出を見る為に富士山に行く約束をしていたのだが、
友人の父親がいきなり倒れ、
初日の出どころでは無くなったということだった。
嗚咽まじりの友人に
私は優しく声をかける。
「私の事は気にしなくて良いから。
それより、おじさんの方が心配だよ。
大丈夫?」
そう言いながらも内心、
ガッカリした思いの方が強かった。
数週間かけてプランを練り、
この日の為に体力もつけてきたというのに…
などと自分勝手な事を考え、
突然の家族の不孝に見舞われた友人に悪いとは思いつつ、
心の中でそっと溜め息をついた。
その後、
今から遊べる子いるかなぁ?という淡い期待を胸に、
友人達に電話&メールをしまくったが、
生憎みんな予定が入っていた。
頼みの綱の家族は昨日から海外に旅行中。
意気消沈した私はカーテンを閉めたまま、
カーテン越しに射し込む太陽の明かりを頼りに
登山グッズを片付け、
ボ~ッとしながらベッドに横になった。
一人暮らし用に借りた家具&家電付きの部屋は無駄に広く、
一人で大晦日~正月を迎える事になった私を余計に寂しくさせた。
とりあえず……寝よう。
ピンポーン♪
モニター付きインターホンの呼び鈴で目が覚めた。
時間を見ると21時を過ぎている。
昼間、
カーテン越しに射していた太陽の明かりも無くなり、
部屋は真っ暗になっていたが、
私は電気も点けずにモニターを見た。
すると、
そこには少し険しい顔をした大家さんがいた。
その険しい顔に私は狼狽した。
まさかとは思うけど、
他の住民から私に苦情でもあったのかな?
思い当たることは無かったけれども、
今日はこれ以上、嫌な思いをしたくなかったので
居留守をする事にした。
モニターから大家さんの姿が消え、
モニター画面も暗くなると
私はまたベッドに横になった。
すると、
電気のスイッチを押してもいないのに、
突然、部屋の電気が点いたのだ!
私は驚き、
訳もわからず動けずにいた。
これが心霊現象?
頭の中をクエッションマークが渦巻く中、
静まりきった部屋にカチャンッという音が響いた……。
【解説】
語り手は
『これが心霊現象?』
と混乱しているが、
『静まりきった部屋にカチャンッという音が響いた……』
と入ってきた者は大家である。
やってきた大家は空き巣として入るために
インターホンを鳴らし、
在宅確認を行った。
大晦日なので、いない家も多く、
いたとしても
「今年もラストなのでご挨拶に…」
とでも言えばいいだろう。
そのため、
おそらく語り手以外の家にも
同じことをしているはずである。
最近だと居留守を使う人が多いため、
インターホンだけでは在宅確認は完璧ではない。
そのため、インターホンの他に、
部屋の証明リモコンを用意しておいて、
外から電気をつけることによって
在宅確認を行った。
突然自分の部屋の電気が点いたら
寝ていても眩しさで起きて
ベッドでのたうちまわったり、
証明リモコンを確認したり、
蛍光灯を調べたりなど何らかの動きをするだろう。
それによって、
玄関の前にいれば物音が聞こえるかもしれないし、
カーテン越しに動きを確認したかも知れない。
それで在宅確認を行ったものの、
語り手は全く動けずにいたため、
物音も動きもなく、
大家は不在だと判断して侵入してきた。
つまり、
『今日はこれ以上、嫌な思いをしたくなかったので
居留守をする事にした』
と言っているが、
きちんとインターホンに出ていれば
在宅しているのがわかり、
大家が侵入してくることがなかったわけで…
嫌な思いをしたくないから居留守を使ったがために
嫌な思いをしてしまった語り手であった。
はたして、このあとどのようになるのか…
口封じされないことを祈ろう…