チリリンと音をたて
ボクが扉を開けるとママが泣いていた。
「どうしたの?ママ」
ボクが訊くと、
ママは幽霊を見たという。
扉からスーッと入ってきて
フッと消えたんだという。
ボクが
「もう大丈夫だよ」
と優しく声をかけると
「うん、それがね・・・
亡くなったはずの一人息子に似てたの」
とママが脅えたようにボクを見つめて言う。
ボクはゾクッとし、
とりあえず、ママに「何か飲み物を」と言った。
【解説】
『ボク』は小さな子供で
『ママ』は母親。
『亡くなったはずの一人息子に似てたの』
と言っているし、
『ママが脅えたようにボクを見つめて言う』
とあるので、
『ボク』は幽霊である。
…と思ったものの、
普通に会話しているように思うため。
何かが違う気がする。
となると、
『ママ』はスナックのママで
『僕』はそのお客さん?
そう考えると
『チリリンと音をたて』
などとお客さんが来た時にわかるように
ドアにつけているベルの音。
『何か飲み物を』は
スナックのママに対してだとしっくりくる気がする。
息子が亡くなったという会話は
『ボク』を幽霊と勘違いさせるための叙述トリック?
それとも…
『ママが脅えたようにボクを見つめて言う』
『ボクはゾクッとし』
語り手が『ゾクッ』とした理由が
実はママの息子を殺したからだったからとか…?
『亡くなったはずの一人息子に似てたの』
息子だと確信を持てたら
まだ救われたのかもしれない…