俺は一ヶ月前、交通事故にあった。
今も入院中だ。
その日、車の中にいたのは俺と兄貴とツレの三人。
俺と兄貴はひどく酔っぱらってたらしく、その日はツレに車を運転させてたんだ。
運転席にはツレ、助手席に兄貴、後ろの席に俺。だったと、思う・・・。
車は人通りの少ない道を通っていた。昼間でもめったに、
とゆうか全くだれも通らないような道で車一台が何とか通れるぐらいの幅だった。
そして、不幸は不意に、突然やってきた。
トラックと正面衝突したんだ。
病院で俺は目を覚ました。
なんか体がだるく、うまく動けない。
周りを見渡すと、目の前のベッドには兄貴が上半身を起こした状態になっていた。
俺と兄貴は同室らしく、見た感じは兄貴は無事だったようだ。
目が覚めて兄貴に声かけたら無視されたよ・・・
俺?俺は割と軽傷だった。骨折を2カ所ぐらいしただけ。
後で聞いた話だと、救急車が駆けつけたときにはもう、
車の運転席の部分は潰れてツレの方は即死だったらしく、
俺と兄貴は意識不明だったらしい。
ちなみに、トラックの運転手は今も逃走中らしい。
入院中俺はほとんど眠っていて、
まともに起きてるのは飯食うときとトイレ行くときと面会の時かな。
そういえば面会でたまに母が来たけど、なぜいつも俺とだけ喋るんだろうか?
兄貴をまるで無視している。
兄貴も、俺と母が話してるときもずっと一点を見つめて母に見向きもしなかった。
いま考えるとちょっと不気味だったよ・・・
事故から2週間、退院の日が来た。
怪我はまだ治ってないけど、日常生活に支障はないとのこと。
兄貴はまだどこか悪いのだろうか。ベッドの上にいるままだ。
俺は兄貴に「早く、体直せよ。」とだけ言って病室を出た。
そして、今まで気がつかなかったことに気がついた。
病室のネームプレート(?)に俺の名前しか書いてない。
俺はそのことを疑問に思い、迎えに来てくれた母に尋ねる。
「なんで兄貴の名前が書いてないの?」
事故から一ヶ月、俺はまだ入院中だ。
【解説】
『面会でたまに母が来たけど、なぜいつも俺とだけ喋るんだろうか?』
『病室のネームプレート(?)に俺の名前しか書いてない。』
『「なんで兄貴の名前が書いてないの?」
事故から一ヶ月、俺はまだ入院中だ。』
兄貴はすでに亡くなっている?
少なくとも、入院している部屋には兄は実際にはいないのに、
語り手だけに見えていた。
そのため、母に兄のことを尋ねた結果、
また入院させられることになった。
おそらく見えてはいけないものが見えていたということで、
精神科などに入れられたのだろう。
『そういえば面会でたまに母が来たけど、なぜいつも俺とだけ喋るんだろうか?』
兄の名前が書いていないことを聞いたということは、
実際に入院している部屋にはいないことを知ったはず。
それなのに、思い返している状況で、
『そういえば』と思い出した状況で
『なぜ??』と不思議に思っている。
つまり、母親に兄のことを言われたはずなのに、
そのことを受け入れられず、
兄がいたことに執着したのだろう。
その結果、精神科のようなところに入院することになった。
事故のショックが大きくて兄を忘れられないのだろうと解釈すれば、
カウンセリングに通いながら少しずつ意識を変えていけるはず。
にも関わらずいきなり精神科の病院に入院させたとしたら…
母親自身がそういう息子と関わりたくなくて、
入院させることにしたのかもしれない。
…と考えるとなんとなく後味が悪く感じてしまう。
見えないものが見える状態は脳の病気だったりもするようなので、
それを知るために実際は精密検査を行うための入院かもしれませんが。
表面の傷は治っても、内面の傷はなかなか治せないし、気付かないもの。
トラウマを克服するのも非常に難しいですからね…。