玄関を開けると、
そこには結婚して間もない妻が帰りを待っていてくれた。
「お帰りなさい、今夜も遅かったのね。仕事、忙しいの?」
「うん、そうなんだ。最近、大きな仕事任されちゃって」
妻にスーツの上を預け、ダイニングに向かう。
テーブルの上には、
じゃがいものいい香りを漂わせた大きな器があった。
「お!今日は肉じゃがか」
「そうよ、あなた大好きだったでしょう?」
しかし椅子に座ってから、違和感を覚えた。
「あれ?この肉じゃが、肝心な物が入ってないんだけど?」
背後に立った妻が答える。
「ああ、それね。さっきまで、材料がなかったから」
【解説】
『ああ、それね。さっきまで、材料がなかったから』
さっきまで肉じゃがの肝心な物である肉が入っていなかったが、
語り手が帰ってきたことで材料が手に入ったようだ。
つまり、肉は夫である語り手。
本当に仕事で帰りが遅いのに、
勘違いと嫉妬で夫が浮気していると思いこんでしまった。
そのため、肉じゃがの肉を夫にすることで、
報復を行うことにした。
肉じゃがを作った理由は
結婚の一要因になった思い出の料理だからか?
「あなたが大好きといった肉じゃがで、
あなたを永遠に私だけの物にしてやる!」
と…。
私の知っている限りでは、
「帰ったら家が真っ暗で包丁で刺されそうになった」
「帰ったら家の鍵が変わっていて、家に入れてくれず、
そのまま朝まで車の中で過ごした」
なんてことをされている人もいた。
一つ間違えば事件なのだが…
なので、こういう話も
ありえない話ではないと思ってしまうことに
ゾッとしてしまう…