事実は小説よりも奇なりとはよく言ったものだ
少なくとも子供の僕には現実は厳しすぎた
またあの日がやってくる
巨大な手がスーっと伸びてくる
僕が住んでいるマンションを掴んだ
そしてガタガタと揺らし始める
9階に住んでいた僕は振り落とされまいと必死にしがみつく
大人達は周りで騒いでいるだけで何も出来ない
僕達の棟は見逃されたが、隣は持っていかれた
知り合いのオバさんは建物の下敷きになって死んでしまった
仲のよかった友達は食べられてしまうかもしれない
大好きだったお姉ちゃんも「あなたは生き延びて!」と言葉を残しそれきりだ
隣の子も引き篭もってしまった
皆が一生懸命働いて手に入れた物資は全て持っていかれた
難を逃れた者達はぐったりとしている
明日からどうやって生活していけばいいのだろう
【解説】
語り手は養蜂場のミツバチ。
ミツバチから見たら
養蜂場の人は悪魔にしか見えないだろう。
せっかく集めたハチミツどころか
巣まで持っていかれるとか…
恐ろしい限りである。
私としてはハチが恐ろしいが…
ハチの時期が来ると、
いつも朝に待ち構えていたスズメバチを思い出してしまう。
一日だけならまだしも毎日のように遭遇していたため、
気が気でなかった。
アパートの共有玄関に花があったために
共有玄関を通る時のあの恐怖。
今は引っ越したが、
あれはもう味わいたくないものである。