とある古い旅館に泊まった時の出来ごと。
私は夜中にトイレに行こうとして、
見てはいけないものを見てしまった。
この世の者ではない者が首をまわし
「見たな!」と叫ぶと、私のことを追いかけてきた。
私は部屋に逃げ帰り、布団をかぶって震えていた。
すると、旅館の廊下を奴が歩いてくる音がする。
どうやら一つ一つの部屋を調べているようだ。
ガラリ。「ここにはいない…」トットットッ、ガラリ。「ここにもいない…」
声はだんだんと近付いてくる。そしてついに私の部屋の戸が開けられた。
ガラリ!「ここにもいない!!」
すすり泣く声はだんだんと遠ざかっていった。
【解説】
『私の部屋の戸が開けられた』
にも関わらず、
『ここにもいない!!』
と言われている。
『布団をかぶって震えていた』
にも関わらずである。
となると、相手には語り手が見えていなかったのだろう。
つまり、語り手が幽霊である。
『この世の者ではない者』とは、
幽霊たちから見ればこの世の者ではない者のため、
生きている人のことだろう。
きっと最初は波長が合ってしまい、
語り手のことが見えてしまった。
『すすり泣く声はだんだんと遠ざかっていった』
はおそらく語り手という幽霊を見てしまったために、
怖くて泣いてしまったのだろう。
しかし…
部屋を一つ部屋を開けて調べている、
相手の方が正直怖いと思ってしまうのだが…