我が家には存在しない家族がいます。
名前は美香。歳は私の2つ下。
その架空の「美香」宛てに、
雛人形のダイレクトメールが届いたことが始まりでした。
宛名の住所と名字は我が家のもので合っています。
家族は、両親と兄、私、弟で、
「美香」と似た漢字を使うわけでもなく、
私とは数年ズレて雛人形のDMが来たことから、
我が家の誰かと間違っているわけではないようです。
架空の美香も年々成長するらしく、
小学校入学時にはランドセルや学習教材のDM、
英会話教室や子供用保険の電話勧誘、
中学や高校生になるとそれ相応のDMやハガキなどが届きました。
電話での勧誘の際、母がよく
「うちには<美香>って子供はいないんですけど」
と伝えましたが、相手側は断り文句程度にしか思わないのか、
その後も電話は定期的にかかってきました。
我が家にとっては、存在しない家族である美香ですが、
こうも長いこと美香宛てに連絡がくると、不思議と親近感が沸き
目には見えないけれど存在はしているような錯覚を覚え、
今では美香宛ての電話がかかってくると
「今はいません」等と対応するようになりました。
昨年我が家には振袖のDMが大量に届きました。
美香も無事成人したようです。
【解説】
これは出回っている名簿が
どこかで混在してしまって
間違って連絡が来るようになってしまった、
ということなんだろう。
ただ、そうやって実際に名簿がばらまかれていると考えると、
わかってはいたものの、正直嫌なものである。
それにしても、長いこと美香宛てに連絡がきていたために、
親近感が沸き、存在しているような感覚に陥っている。
これはさらに時間が経つと、
見えない何かに声をかけ始めるのではないだろうか?
思い込みであたかもそこに存在し、
見えているような錯覚に陥るのではないかと思う。
他人のミスによって作りだされた美香であるが、
それがこの家族にとってかけがえのない人になっていくのだろうか…