人がいなくなるという噂のある神社が近くにあると聞いて、
俺と友人は早速出かけてみることにした。
木々の生い茂る山道を抜け、
角度の急な石段を登ると少し開けた場所に出た。
どうやらここが噂の神社らしい。
ところが、俺と友人は早速拍子抜けしてしまった。
なぜなら髪の薄くなったおじさんが
普通に境内の掃除をしていたからだ。
だけど、ここでなにもせずに帰るのもなんだか悔しいので、
その人に話を聞いてみた。
その人はどうやらここの神主さんらしく、
「人が消える」というような物騒な噂は聞いたことがない、
ということだった。
結局無駄足かぁと思いつつ、神社を後にする俺たち。
その帰り道で、
落ち込んでいる俺を励まそうと思ったのか友人がこういった。
「神主さんを思い出してみろよ。噂は本当だったんだ」
それを聞いて俺は思わず笑ってしまった。
神主さんの目の前ではとてもいえないような冗談だったが、
少し残念な気持ちを吹き飛ばすのには十分だった。
後日、鏡を見るまでは。
【解説】
人がいなくなる=神隠し
なので、友人の
『神主さんを思い出してみろよ。噂は本当だったんだ』
という言葉は
髪の薄いおじさんが"髪隠し"にあったからだと笑い話にしている。
…が、
『落ち込んでいる俺を励まそうと思ったのか友人がこういった。
「神主さんを思い出してみろよ。噂は本当だったんだ」』
を見てみると、
友人は語り手を見て髪が薄くなっているのを感じ、
励まそうと思ったのではなく、
事実として思ったことを言ったのだろう。
だから、語り手は最後に
『後日、鏡を見るまでは』
と締めているのは、友人は励まそうと思ったわけではなく、
実際に語り手が髪が薄くなるのを確認した言葉だったと知ったためである。