電車でうたた寝しちゃってたみたいだ。
肩をポンポンっとたたかれてハッと目が覚めた。
見上げると見たことのない陰気くさいおっさんが立っていた。
「つきましたよ」
とそのおっさんは言う。
え?寝過ごした?
あわてて立ち上がってホームへ駆け下りる。
ドアが閉まって気づいた。
なんだよ!降りる駅じゃないぞ。からかわれた。
走り出した電車を見ると、
そのおっさんが妙にすがすがしげに背伸びして笑ってやがる!
くそ!たちの悪いおっさんだ。
しゃぁない。すぐ次が来るだろうし。
・・・にしても、寝違えたかな。肩が重い
【解説】
『つきましたよ』 = 『憑きましたよ』
のパターン。
語り手は霊に憑かれたため、
『・・・にしても、寝違えたかな。肩が重い』
と言っている。
『陰気くさいおっさん』が
『妙にすがすがしげに背伸びして笑ってやがる!』
とすがすがしげになっているのも、
憑いていた霊を語り手に引き渡すことができたからだろう。
語り手は
「着きましたよ」
と言われたと思ってホームへ駆け下りたが、
見知らぬ人が語り手の降りる駅を知っているはずがない。
しかし、語り手はドアが閉まるまで気が付かなかった。
寝起きで頭が回転していなかったところに、
「寝過ごした!」
と思ってしまったら、
冷静に考えられず、
すぐに下車してしまうのも無理はない。
もしかしたら、このおっさんは、
肩をポンポンと叩くだけで霊を渡すことができたかもしれないが、
霊を渡した語り手を下車させることで
自分に戻ってくることは確実ないと考え、
「つきましたよ」なんてわざわざ言ったのかもしれない。
こうなることを想定していたのであれば、
このおっさんは策士であったと言わざるを得ない。