俺が住んでいるアパートのドアは立て付けが悪い。
バネの部分が壊れ、音もなく閉まる。
ある日の0時過ぎ、俺はそろそろ寝ようと思い、
電気を消し、布団の中に潜った。
俺はあまり寝付きが良い方ではなく、
布団に入って眠りに落ちるまでだいたい30分はかかる。
その間何度も寝返りをうった。
目覚ましの時計の針の音が耳に障る。
うとうとしかけた時、外でこつこつとハイヒールの音がした。
距離にして俺の部屋ふきんで止まった。
その後、ノブをゆっくりまわす音が聴こえた。
深夜ということで他の住人に配慮したのだろう。
今日の夜は本当に空気が澄んでるのか、よく音が通る。
虫の小さな鳴き声までよく聴こえてくるのだから。
その音色を聴いて思い出した。
玄関先にある庭の草がぼうぼうだ。
今度管理人にいって刈ってもらおう。
「住人が帰ってきたんだな。こんな遅くまでご苦労なこった」
うとうとしていた所を邪魔され少しばかりイラっとしたが、
俺は再び眠りにつくよう努めた。
それから数分ぐらい経っただろうか。
またノブをゆっくりまわす音が聴こえた。
「こんな時間にまたどこか行くのか?」
まあ俺にはどうでもいい事だ。
明日も早いし、さっさと寝よう。
それから俺は身じろぎ一つせず、
布団の中でどうすべきか考えていた・・。
時計の針の音が恐怖心をさらに煽る。
【解説】
『時計の針の音』
というのは、
静寂な様子を表しているのだろう。
しかし、"一回目"の
『ノブをゆっくりまわす音』
がしてから、
『虫の小さな鳴き声』
が聞こえている。
そして、"二回目"の
『またノブをゆっくりまわす音』
がしてから、
時計の針の音が聞こえているため、
また、静寂に包まれた。
つまり、他の住人が帰ってきたわけではなく、
何者かが語り手の部屋の中に侵入してきたということ。
"二回目"の
『ノブをゆっくりまわす音』は
『数分ぐらい経っただろうか』
と言っていることから、
閉まるまでに時間がかかっている。
語り手の部屋に侵入してきたものは、
念入りに時間をかけて、
音が出ないようにドアを閉めた、
ということだろうか。
外から見れば完全に不審者であるが…。
果たして、この後語り手はどうなってしまうのだろうか?