中学三年の時、Aという男子の転校生がうちのクラスに来た。
席が俺の隣になったので、休み時間に話しかけたらすぐに打ちとけた。
お互いの家族構成なんかを話してると、
ずいぶん前に死に別れた姉がいたことを教えてくれた。
神経系の難病だったらしく、
意識はしっかりしてるんだけど身体は動かなくなっていき、
最期の数年間は寝たきり状態で、
よく「死にたい死にたい」と言ってたそうだ。
ずいぶん重い話を初対面で話すんだなあと思ったけど、
まあ心を許してくれたんだから良い友達になれそうだなと思い、
放課後、一緒に帰るついでにAの家に遊びに行くことにした。
Aの家は新築の、まあどこにでもある小さな建売住宅だった。
両親とも共働きで夜まで一人なんだとAは言うと玄関の鍵を開け、
俺も一緒に家に入った。
しばらくAの部屋でゲームとかして遊んでたんだけどすぐに飽きて、
進路の話をしたりAが以前いた学校のことを聞いたりしてた。
そんな話の流れの中で、俺は何気なく
「そういえばAの死んだお姉さんてさあ・・・」
って言葉を、ほんと何気なくなんだけど口に出した。
そうしたらAの顔が一瞬変わって
「もうその話はいいだろ!」
と強い口調で言ってきた。
俺も、言い方がまずかったのかなと思ってごめんと謝ったんだけど、
なんか場の空気もしらけて、気まずくなって俺はすぐに自分の家に帰った。
次の日Aに話しかけたらまた打ち解けた雰囲気が戻っていて、
Aも「昨日は怒ってごめん」と謝ってきて、
まあそれからは普通に友達として仲良く接していた。
一週間ぐらい経ったある日、Aが学校を休んだ。
先生の話によると、
昨晩、ずっと寝たきりだったAのお姉さんが自宅のベッドで亡くなったそうだ。
【解説】
Aは神経系の難病で
ずっと寝たきりだった姉を
死んだことにして話していた。
そして、語り手の言葉
『そういえばAの死んだお姉さんてさあ・・・』
ということを姉が聞き、
死んだことにされていた姉は
「自分はこの世に必要ない…人に迷惑をかけるだけ…」
などと考え、
自殺をしてしまった。
語り手としては初対面から重い話をするくらいだから、
聞いても大丈夫な話題だと思い、
何気なく口に出したのだろう。
しかし、実際に家の中に姉がいるAとしては、
「それを聞かれたらどうする!」
という心境だったはずである。
おそらく、次の日に打ち解けた雰囲気が戻っていたのは、
姉が聞かなかった振りをしたから。
しかし、結局思い悩んで自殺してしまった。
なぜAは初対面で重い話をしたのだろうか?
Aは転校生とのことなので、
周りに馴染むために興味を引きたかった…?
初対面で重すぎる話も
反応に困るのだが…
そして、死んだことにしている姉がいる家に
連れてくるのもなんとも計画性がないというか…
「家の中では姉の話はタブーだから」
などと言っておけば別だったのだろうが。
正直Aの行動は不可解なところが多い。
もしかして、
Aからすると思い通りに事が運んだ、
とでも思っているのだろうか…?