去年の夏、福井県の某キャンプ場に友人四人で行った。
そこは目の前がすぐ海水浴場になっているため、
海のシーズンになると毎年このメンバーで訪れるキャンプ地だった。
夏の海を堪能し、夜はお決まりのバーベキュー。
ビールを飲みながら、話題は尽きることなく楽しい時間は過ぎていく。
周りの談笑する声も夜が更ける程に少なくなっていた。
そろそろ自分達も寝ようかということになり、テントにもぐりこむ。
波の音を聞きながら、ビールの酔いも手伝って
吸い込まれるように眠りに落ちていった。
「おい!」
その声で目が覚めた。
「水をくれ。」
テントの入口を見ると、だれかが立っていて、
入口から手だけをテント内に突き出してもう一度言った。
「水くれ。」
あまりに普通の会話の調子だったので「ほらよっと。」と
自分の頭の上にあった水筒を手渡した。
先に起きた友達のうちのだれかだろう・・・そう思ったから。
しかし、水筒を手渡してテント内に視線を戻してみると
友人3人、しっかり寝てる。
入口を振り返ると、去っていく足音もなく、もうそこにはだれもいなかった。
すぐにテントからはいずりでて周りを見た。
明け方の静かなキャンプ場。起き出ている者は自分しかいない。
よく考えるとゾクッとしそうだったので考えるのをやめ、
友人を起すのも気が引けたので、砂浜を散歩して気を紛らすことにした。
散歩しなきゃよかった。
波打ち際で見つけたもの・・・俺の水筒・・・。
【解説】
声の主は生きている人?幽霊?
と疑問になったが、
『入口を振り返ると、去っていく足音もなく、もうそこにはだれもいなかった』
とあるので、幽霊と考えるべきだろう。
仮に生きている人であれば、
水筒の中身を飲んだ後に入水したと考えられるので、
それはそれで嫌だが…
幽霊であれば、
波打ち際で見つけたことからも、
海で亡くなってしまったのだろう。
海で溺れ死んでしまったのであれば、
水をたくさん飲んでいるが、
それはあくまで海水。
逆に喉が渇いてしまったので、
ちゃんとした水を飲みたかったから、
わざわざ語り手から水をもらい、
喉を潤してから海へと戻ったのだろうか…?