わたしが仕事から帰ってくると、
妻が玄関の前でわたしを待っていた。
またか。ひどく憂鬱になる。
「あなた、お帰りなさい。家に入ってはダメよ」
「なぜ?」
「火星人が家に攻めてきたの。今ジョンが戦っているわ。
でもさっき鳴き声がしたきり」
わたしは玄関先で穏やかに妻をなだめると、家に入った。
当然火星人などいない。妻は泣き喚く。
「ああ、ジョン。あなた、ジョンが死んでしまったわ。
私たちを守ってくれたのね」
「そうだね。ジョンは庭に埋めてあげよう」
わたしは「ジョン」を庭に埋める。
愛する妻を守るためとはいえ、
何人こうして埋めなければならないのだろうか。
【解説】
『何人こうして埋めなければならないのだろうか』
とあることから、ジョンというのはペットではなく、
人であることがわかる。
語り手は
『当然火星人などいない』
と言っているが、
では、ジョンは果たして何に殺されたのだろうか?
語り手が人を埋めるのは、
『愛する妻を守るため』
つまり、妻がジョンを殺し、
しかもそれが何度も続いている。
妻は本気で火星人が攻めてきたと思っているのか、
人を殺しているのは無意識なのか、意図的なのか、
そこらへんはさっぱりわからないが、
語り手は愛する妻に捕まってほしくないために、
死体を埋めて証拠を隠滅している。
仮にこんな家族が近くに住んでいたら、
怖くて近寄りないのだが…