お前等、この世の中、
自分のことしか考えない腐り切った人間ばかりしかいないと思っているだろう。
本当はそんなことはないんだぜ。
この世には、無償で人に金を恵んでくれる聖人君子みたいな奴もいるんだよ。
俺の友人Kがそうなんだ。
俺は、最近会社の収入が減って困っているってことをKに話した。
すると、Kは親身に俺の話に付き合ってくれた。
やがてKは言った。
「大丈夫、金なんて幾らでも増やせるんだよ。
試しに、今度5000万円持って俺の家に来てくれ。」
と。
俺は半信半疑のまま、
現金5000万円を無理して作って、Kの家に持っていった。
Kは、丁度1億円の現金が入るサイズのアタッシュケースと、
5000万円の現金を用意して待っていた。
Kは、自分の5000万円をアタッシュケースに詰め込み、
次いで俺から受け取った5000万円もアタッシュケースに入れ、
蓋を閉じて鍵を閉めた。そしてKは言ったんだ。
「なあ、お前に聞きたいんだが、今このケースの中には何円入ってる?」
「何当たり前のこと聞いてんだよ。合計で1億円だろ?
このケースには、1億円の現金がパンパンに詰まってるじゃないか。」
Kは深く頷いた。
そして言った。
「なあ、お前に特別に金儲けさせてあげるよ。
このアタッシュケース、7000万円で買わないか?」
勿論即買いだ。
たった7000万円を支払うだけで、
俺は1億円入りのアタッシュケースを手に入れたんだ。
Kに相談したお陰で、俺は3000万円も得してしまった。
な?世の中には良い奴だっているだろ?
【解説】
アタッシュケースの1億円の内
5000万は語り手が持ってきたお金である。
つまり、
1億円 ー 5000万円 = 5000万円
を7000万円で語り手は即買いした。
語り手は3000万円の得どころか、
2000万円をだまし取られているということですな。
この語り手は
『最近会社の収入が減って困っている』
と言っているので、
『現金5000万円を無理して作って』
というのは、本当に相当無理をしたのではないかと思う。
にも関わらず、
7000万円で即買いしている。
無理して5000万円を作ったにも関わらず、
7000万円をポンと出せるほどの資金があるはずもない。
となると、この7000万円は
アタッシュケースから出したのだろうと…
となると、そのアタッシュケースからお金を出している時に
「あれ?5000万円持ってきたのに3000万円しか残らない…」
と気付いても良さそうなものであるが…
「友人だから騙すはずがない」
と考えていた部分もあったのかもしれないが…
こういう騙され方は、
「自分には絶対にない!」
と思ってしまうようなことなので、
少し怖い部分がある。
ちなみにこの話はおそらく
落語の「壺算」が関係しているものだと思われる。