「姉さん……。」
思わず、また呟いてしまった。
俺は、こんな雨の日は、亡き姉のことを思い出す。
去年、病死した優しい姉。
姉は、俺をとても可愛がってくれていた。
いつも優しく、俺にとって理想の女性だった姉。
何で死んでしまったんだろう。
どうして、俺と兄を残して……。
その時だった。
背後に不気味な気配を感じて、俺は振り返った。
そこには、明らかに人間ではない、異形の生物が立っていた。
怪物は、言った。
「おめでとうございます。貴方は選ばれた存在です。
貴方の願い事を、何でも一つ叶えて差し上げましょう。」
俺は思わず頭を抱えた。
まずいな、最近精神の調子は良くなかったが、
とうとう幻覚を見るようになったか。
俺は思わず、目の前の怪物に、一番の願い事を言っていた。
「姉さんに、逢いたい……。」
と。
再び前を見ると、怪物は消えていた。
やはりあれは、夢か幻だったんだろう。
その時だった。携帯が鳴った。
新婚旅行中の兄から、突然電話が掛かってきたのである。
「どうしたんだよ、兄貴。」
「大変だ……妻が、突然さらわれたんだよ!!」
【解説】
語り手の実の姉は去年亡くなってしまった。
しかし、兄が結婚したため、
その奥さんが「義姉さん」になる。
『大変だ……妻が、突然さらわれたんだよ!!』
とのことなので、
おそらく怪物はこの『義姉さん』を
語り手の元へと連れてくるだろう。
結局はさらわれたと言っても、
語り手の元へ連れてくるだけなので、
大事にはならないはずである。
新婚旅行が台無しになったのは間違いないのだが…
また、語り手の元に連れてこられると、
語り手が主犯であると思われる可能性もあるため、
捕まるかどうかはわからないが、
兄弟の関係は悪くなるかもしれない…