昼食をとり終えた頃、いい天気なので散歩にでも行こうと思い出た。
歩きだそうとしたとき10メートル先に妊婦がしゃがみこんでいるのが目にはいる。
すぐに駆けつけ、
「大丈夫ですか?」
と声をかけるが返事はこない。
「どうしました?」
またも返事はない。
さすがにまずいと思い
「救急車を呼びますね」
と言い、携帯を取り出した。
そのとき妊婦が口を開いた
「あのー、すいませんこの近くに交番はありますか?」
なぜ交番の場所を聞かれたのか疑問に思いながらも交番の場所をおしえる。
すると
「そうですかありがとうございます。」
と言いながら立ち上がり、続けざまに
「それではまたどこかで」
と言うと妊婦は去っていった。
なんだったのだろうかと思いながら携帯を開く。
その瞬間、あの妊婦の言葉の意味を理解して僕はすぐさま家へと逃げ込んだ。
今思い出しても背筋が凍りつく。
もしあの時声をかけなければどうなっていたのだろうか。
【解説】
しゃがみこんでいたのは妊婦ではなく、
妊婦の振りをしていた通り魔。
油断して声をかけてきた人を殺している。
交番が近くにあったため、語り手は殺されなかった。
携帯を見て気づいたのは、
きっと通り魔の手口が書かれたニュースを見たのだろう。
『それではまたどこかで』
という言葉からして顔を覚えられ、
次のターゲットにされているのかもしれない。
恨みを買われたのならいざ知らず、
通り魔に刺されるのはやはり腑に落ちないものである…。