【意味怖】意味がわかると怖い話まとめ

【意味怖】意味がわかると怖い話を読んで頭の体操を!捉え方は人それぞれであり、答えは一つであるとは言えません。解説も答えではなく、一つの捉え方。あなたがどう捉えたかを教えていただけると幸いです。


【意味怖】少年

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この世が暗黒の闇に包まれてから、
既に五年の歳月が流れていた。

 

『この世界はワシが支配した。
全ての人間共よ、貴様らは
ワシの忠実な下僕として余生を過ごすがいい』

 

朱色の空に、その声は響き渡った。

 


自然と平和に満ちたこの世界を闇が包んだのは、
五年前のことだった。

 

一匹の特殊変異した動物が町人、
村人を襲ったことが前兆だったと言える。

 

特殊変異の動物は徐々に増加し、
その形態も大小様々だった。

 

動物に限らず、
人の形態を成した人外も出現し、
町人、村人の生活は一変した。

 

交易は無くなり、
一部の国や町の繁栄は衰え、
国外、町外、村外へ出る人間はいなくなっていた。

 


奇怪な生物、人外達が出現してから三年後、
一つの町が襲われた。

 

それは突然のことだった。

 

町人達が寝静まった頃、
多勢の馬の蹄が町中に響き渡る。

 

何事かと、
民家から出て様子を確認しようとした町人の身体を、
一本の槍が貫いたのだ。

 

それが合図となったのか、
火の点いた松明(タイマツ)が
一斉に民家へ向けて投げられた。

 

町が炎に包まれるのに、
時間は掛からなかった。

 

突然の出来事に戸惑う町人達。

 

民家から出て、
町外へ逃げようとする人々を嘲笑う様に追い回す
人成らざるモノ共による殺戮。

 

燃え盛る炎と、
逃げ惑う町人達の阿鼻叫喚。

 

まさにそれは地獄絵図。

 


少年はその町の民家に、
両親と三人で暮らしていた。

 

突然起きた予期せぬ事態に父親は、
少年と妻に町の外へ逃げるように伝えた。

 

『あいつらを引き止めておくから、
その隙にお前達は早く逃げろっ!』

 

妻は夫の言葉の意味を一瞬理解出来ないでいたが、
自分の服を掴む小さな手を見た妻は、
泣く泣く夫の言葉を受け入れた。

 

少年の手を掴み、
町の裏手側の門から燃え盛る町を背にして、
町外へと駆け出したのだった。

 


森まで逃げて来た所で、
妻子は人外達に囲まれた。

 

妻は、夫と同じ行為を息子へと繰り返した。

 

少年は母親の悲鳴を背に、
森の中を走り抜けた。

 

これが五年前に起きた
『サントハイムの悲劇』
である……。

 


五年後、
とある村に暮らしていた少年は
魔王を倒し父親と母親の仇を取る為、
世話になった老婆に別れを告げて村を出た。

 

道中ではモンスター
(特殊変異動物、人外のモノに付けられた名称)に
遭遇するも、命からがら逃げ切り、
一つの国に到着した。

 

『ここは水の都、ポートセルミです。
王様が、魔王を倒す勇気ある人間を募集していたよ』

 

同じことを何度も繰り返し喋り続ける国の人間に別れを告げ、
少年は王様のいるお城へ向かった。

 

謁見の間にて

 

王『お主の様なひよっこに何が出来るという。
早々に去るがいいっ。無礼者が!』

 

『…』

 

王様は聞く耳を持ってくれず、
少年は国から去り、
他の町や村で情報を得ることにした。

 


ある町に着き、
魔王を倒すことを口にした途端

 

『ガキに何が出来るってんだ。
まずは町の周りをうろついてるモンスターを
全て排除してからデカい口を叩くこった。カスが』

 

『……』

 


ある村に着き、
魔王を倒すことを口にした途端

 

『ガキは黙って逃げてな。
夢見てんじゃねーよ、このゴミが』

 

『………』

 


またある国に着き、
魔王を倒すことを口にした途端

 

『お前にはムリだ、ムリ。
家に帰って○ケモンでもやってな。クソガキ』

 

『…………』

 


少年の話をまともに聞く人間は
誰一人としていなかった。

 

少年は、誰の手も借りず、
自分一人で魔王を倒すのを誓ったのだった。

 

数年後、
あらゆるモンスターを倒せるまでの力と経験を身に付けた彼は、
ついに魔王の住む城へと到着した。

 

目指すは最上階である100階、

【魔王の間】

 

襲いくるモンスター共を倒し、
順調に城内を駆け上がる。

 

途中で立ち寄った謎の部屋で、
どんなモノでも斬ることが出来る
伝説の聖なる剣【エクスカリバー】を、
何故か魔王の城内で手に入れた彼は、
その剣を手についに魔王の待つ【魔王の間】へと辿り着いた。

 

『待ち侘びたぞ、愚かなる人間よ。
貴様の力、ねじ伏せてくれよう』

 

魔王との戦いが始まった………。

 


『そんなものか、お前の力は。
おい、死ぬか?』

 

『ど、どうか命だけはお助け下さい』

 

『哀れだな。おい、お前。
オレの部下にならないか?
オレの部下として付き従うのなら、
お前を生かしておいてやる』

 

『あ、ありがとうございます』

 

『有難きお言葉、魔王様、だろ…』

 

『え……、は、はい。
有難きお言葉…ま、魔王様』

 

『…くくくく、はーはっはっは!!!』

 


一人の魔王の支配するこの世界は、
更なる混沌へと満ちていった。

 

 

【解説】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少年が魔王になったお話。

 

冒頭で元魔王は

『ワシ』と言っているが、

ラストの部分で

『オレの部下にならないか?』

と『オレ』と言っている。

 

『オレ』と言っているのは

『サントハイムの悲劇』で生き残った少年である。

 

当初は両親の仇として

魔王を倒すことを目指していた。

 

しかし、立ち寄る国や、町、村の人々は

少年のことを相手にするどころか、

むしろ罵倒した。

 

それにより、

世界の人々に憎しみを抱いた少年は

魔王に勝利し、魔王を部下につけ、

世界を支配する事に決めた。

 

 

少年は人間だから

長くは支配できないだろう。

 

いずれ寿命が来るだろうし、

年老いたら元魔王に殺されてしまうかもしれない。

 

いつかまた

元魔王が返り咲く時が来るのだろう。

 

もしかしたらその前に

少年を倒す者が現れるのかもしれないが。