暗い路地で、
私は何者かに追われている。
必死で逃げ回るが、
ヒールだったためにバランスを崩して倒れてしまう。
振り返ると、
月明かりを背にして男が立っている。
男の手にはナイフが握られている。
恐怖のせいか、
助けを求める声を出せず、
立ち上がることもできない。
男はそんな私にジリジリと近寄り、
ナイフを高く掲げ、振り下ろした……
そこで私は目が覚めた。
なんだ、夢か、とホッとする。
嫌に現実味のある夢だったせいか、
細部まで明確に覚えている。
最近疲れが溜まってたせいかな。
起き上がって大きく伸びをする。
寝汗はかいていないようだ。
さてと、
向こう岸で祖父母が手を振って呼んでいるし、
そろそろ行かなきゃ。
【解説】
語り手は殺されてしまった。
今いるのは三途の川。
祖父母が向こう岸にいることに驚いていないし、
『なんだ、夢か、とホッとする』
というのは、ただそれを思い込もうとしているだけのように思う。
祖父母のところに行けば
確実に戻れなくなるけれど、
語り手としてはそれで良いのかもしれない。
三途の川を渡ったらどうなるのだろうか?
それがちょっと気になるところである。