「今日はみんなに新しくこのクラスに入ることになった仲間を紹介する」
高校2年もあと残り半分というときのことだ
『○×高校から来ました。
佐藤愛美です。
これから仲良くしてください』
パチパチパチ
「なら愛美、後ろのあの空いてる席な、勇人の隣~。
勇人~いろいろサポートよろしくな~」
…
愛美はいつだって笑顔を絶やさない優しい子だった。
あの子が転入してきてから、
元気のなかったこのクラスにも笑顔が戻ってきた。
3年までの半年はあっという間に過ぎていった。
クラスマッチ、体育祭、文化祭、
たくさんのイベントをクラス全員楽しんだ。
2年生が終わったあの日、
愛美は、また転校することになったとみんなに告げた。
あまりに突然のことで状況が飲み込めなかった。
最後のホームの後、
愛美はクラスメート一人一人に手紙を渡した。
『私が教室を出たら、その手紙を読んでね。
今までありがとう』
そう言って愛美は教室を出た。
みんなは戸惑いながらもそれぞれの手紙を開いた。
…
読み終わったのだろう。
女生徒の一人が立ち上がり、
愛美を追いかけるように走っていった。
何人かそれに続く。
泣いている生徒もいる。
私も、自分宛の手紙を開いた。
『先生、2年間ありがとう。
先生とは2年連続だったよね。
先生のクラスになれて本当によかった。
みんなに、ちゃんとお礼とか、別れとか言えてなかったから…。
みんなとはこれでもう会えないけど、
最後にちゃんと気持ち伝えられてよかった。
先生のことは忘れません。
先生、本当にお世話になりました』
…涙が溢れた。
「あれからもう半年か…」
【解説】
転向してきた愛美は
半年しかいなかったはずなのに
手紙の中で『2年』と言っている。
それは、愛美は実際に
2年間先生と過ごしたから。
つまり、愛美はクラスに在籍していたものの
亡くなってしまった生徒である。
生徒が亡くなってしまったから
『元気のなかったこのクラス』
と、クラスに元気がなかった。
きっとクラスを盛り上げていた子だったのだろう。
その面影を感じたのか、
愛美が転向してきてからクラスに笑顔が戻ってきた。
しかし、その後半年が経ち
愛美が転校することになり、
手紙の中で亡くなった生徒であることを明かした。
愛美は転向してきた愛美に憑依したのか、
はたまた元々存在していなかったのかはわからないが、
別の人として半年を過ごし、
クラスには大きな影響を与えた。
手紙で伝えるとは粋なものである…。