私の村は山にあり、
街に行くには丸一日かかってしまう。
ある夜、
そんな我が家に旅人がやってきた。
話を聞くと、
山道に迷っていたところ村が見えたらしく、
ここまで来たそうだ。
久々のお客さまで娘も喜んでいるようだ。
「この村にはあなた方以外、
誰もいらっしゃらないんですか?」
「どうして、そう思うんだね?」
「いえ、
他の家にも数件あたったんですが
誰もいなかったんで」
「そうか。皆何処かへ逃げてしまったんだよ」
「逃げた?一体何から?」
「それは知らない方が身のためさ」
「ねぇお兄ちゃん、その時計綺麗だね」
「そうだろ。私の妻の形見なんだ。
だから、とても大切にしてるよ。
死んでもこれだけは手離さないさ」
「へぇ~私も時計欲しいなぁ」
「なら、手に入れるよ。娘のためだしな」
その日は旅話や世間話で盛り上がっていった。
翌日
「ねぇお兄ちゃんは?」
「あぁもう、行ってしまったよ。それより、これ」
「あっ時計!ありがと。お父さん!!」
【解説】
親が旅人を殺して殺して時計を奪い、
娘にあげた。
『皆何処かへ逃げてしまったんだよ』
逃げたのではなく、
殺されてしまったのだろうか。
こういう狂気に満ちた家族がいるなら
逃げてしまいたくもなるが…。