妻が泣いている。
決して嬉しくて泣いているわけでは無いのを僕はしっている。
だが君は辛さを押し殺して笑顔をつくる。
そして精一杯の強がりで僕に叫ぶ、
『おめでとう!』
と。
僕は泣いている。
決して嬉しくなんてないことを妻はしっている。
だが僕は一人の男として恥じぬように、
心の底から微笑む…ような、顔をつくり言う、
『とても幸せです』
と。
妻はまだ笑顔を崩さない、
『頑張ってね』
と言って僕の服を正す。
『あなたを誇りに思うわ』
といって涙ぐみキスをする。
『いってらっしゃい』
と言って頬に一筋の涙を流す。
それでも君は笑う。
精一杯声を張り上げて言う、
『いってきます!』
妻の笑顔を目に焼き付けようとしたが、
どうしてもその笑顔は泣き顔にしか見えなかった。
それでも君は笑う。
『行かないで』
と言いたそうな目で僕を見つめて手を振る。
僕はアメリカへと飛び立った。
僕が飛び立って見えなくなる頃には、
君はどこかに隠れて一人で泣いているんだろう。
【解説】
語り手は特攻隊としてアメリカへと飛び立った。
そのため、語り手の死はほぼ確定している。
当時のことを思うと心が痛い…。