僕には、
産まれたときから召し使いが沢山いる。
毎日美味しいご飯を食べさせてくれるし、
頼んでもないのに部屋の掃除もしてくれる。
パパもママも大人なのに働いてなくて、
いつもの~んびりしてるけど、
召し使いは、僕達のために一生懸命尽くしてくれる。
外にはあまり出られないけど、
僕の家はすごく広いし
友達も沢山いるから退屈はしない。
ある日、パパとママは
沢山の大人と一緒に旅行に行くと言い出した。
「僕も一緒に行く」って言ったのに、
結局パパとママは僕を置いて行っちゃった。
…………………
あれからどれ程の時が流れたのだろうか、
立派な大人になった僕は
遂に旅行に行くことになった。
パパとママには
あの日以来会って無いから、
今日はすっごく楽しみだ。
パパは『すぐに帰ってくる』って言ったのに、
約束破って全然帰って来ないから、
よっぽど楽しい所なんだろうな~。
子供の頃は寂しくて毎日泣いたから
旅行先で会ったら沢山文句言ってやる。
そして、
一緒に行く綺麗な妻を紹介して
可愛い子供が出来たことを伝えるんだ。
しばらくして召し使いが
僕らを乗り物に案内しだした。
僕は、泣きながら
『僕も一緒に連れていって』
という息子に
「大丈夫、すぐに帰って来るから」
と言い聞かせ、
召し使いの案内に従い乗り物に乗った。
「どんなに楽しい旅行でもすぐに帰って
息子を安心させよう」
そう自分に言い聞かせ、
僕と妻と沢山の大人を乗せた乗り物は出発した。
【解説】
語り手は家畜で、
召使は家畜を育てている方々。
程よく育った語り手を出荷しようとしているところ。
なので、語り手は両親同様に
戻ってくることはできない。
語り手の息子もこれから同じ思いをし、
語り手と同じことを考えながら
大人になっていくんだろうなぁ…