私がある山中のスーパーマーケットで働いていた時の話だ。
そのスーパーでは従業員が不足気味だったため、
急遽アルバイトを募集することになった。
周囲の町には若者が少なく、
誰もその募集に名乗りを挙げなかった。
諦めかけていた頃、
1人の青年がふらりと現れた。
細長い顔立ち、
美しい金髪に、
糸目の男だった。
だが、あまりにも無愛想……
というより全く言葉を喋らず、
相手の問い掛けに頷くか、
首を振るかしかしなかった。
こんな調子でバイトが勤まるのか……?
と当初は思っていたのだが、
意外なことに彼がレジに立つと人が集まった。
彼が入って三日で、
売上が大きく上がった。
業績を誉めてあげたが、
彼は相変わらずの無表情のままで小首を傾げるだけだった。
彼がバイトを始めて丁度一週間が経った日、
彼は急にバイトをやめてしまった。
店長がその日までの給料を渡そうとしても、
首を横に振るだけで受け取ろうとしなかったらしい。
その日私は、
普段彼が使っていたレジを使うことになった。
その業務中、
お客の不要レシートを入れている箱が
満杯になっていることに気付いた。
何気なくそのレシートを手に取り、
購入品目に目をやった。
そこには、
大量の「油揚げ」の文字が並んでいた。
【解説】
バイトでやってきた青年は
人間に化けたキツネだった。
そして、
『意外なことに彼がレジに立つと人が集まった』
というのも、
客に化けているキツネたち。
きっと売上のお金も紙幣に化けさせた葉っぱとかだろう。
となると、
お店は結構な損失になってしまいそうである。
しかも、売上として計上しているから、
売上が合わないとなると
それはそれで問題が起きそうだ…
キツネたちは油揚げが食べたかったのだろうけど、
残していった爪痕は大きそうだなぁ…