『只今の時刻は8時10分!ニュースをお伝えします。
―――――犯人は自らを"ヤドカリ"と名乗り逃亡中。
警察は全力をあげて、捜査をしている模様です。
以上、中継でした――』
最近よく流れているニュースだ。
何でも、犯人は工具や金属の扱いに長けていて、
いとも簡単に他人の家に忍び込むらしい。
居住者を殺し、
一日~二日くらいその住居に住み着き、
また別の家を探す。
ちょっと飽きっぽいヤドカリみたいな奴だとか。
ぴったりの名前かもしれない。
(報道ってすごいなぁ。
ちょっと事件が起きただけですぐに嗅ぎ付け、
世間に広まる。
これじゃあ迂闊に犯罪もできないはずなんだけど…
それでもやる人ってよっぽど自信過剰かバカか…(笑)
それとも………っと…あらら、もうこんな時間)
私はリビングにあるはずのリモコンを探し
クーラーの電源を切り、テレビを消し、
戸締まりを確認したところで荷物を確認して外へ出た。
相変わらず重いなぁ…(笑)
電車に乗って、
暇潰しにヤドカリについて調べる。
少し子供向けのページだけど
分かりやすく書かれている。
ヤドカリは自分が快適に過ごせる家を見つけるプロなんだ!とか、
まぁそんな感じの砕けた文章だった。
電車を降り、
時刻は大体18時くらい。
早いところでは勤務が終わっている時間だ。
「さて、私も帰るかなー?」
私好みの閑静な住宅街に寂しく響くのは
誰に聞こえるわけでもない独り言。
苦笑いと共に溜め息を一つ吐いて
家の前に立つ。
鞄からカギを取り出し、
鍵穴に差し込む。
カギをクイッと捻り、扉を空け、
家に入り鍵を閉め、
まず最初にするのはクーラーを点けること。
「は~~~~~~涼しい~~~~~~~!
夏はクーラー無いと暑くてやってらんないよね~~~~~~~♪」
次に私はキッチンに向かい、
戸棚の確認をしてから冷蔵庫を開け、
ビールを取り出た。
玄関からは見えない方の椅子に座り、
主人の帰りを待つ。
飛びっ斬りのサプライズをしてやろう(笑)
――ガチャッ
鍵を開ける音がした。
主人の帰宅だ。
私はサプライズをする為、息を殺し、
キッチンに隠れる。
玄関から居間に繋がる廊下では主人が
「あれぇ!?クーラーちゃんと消したはずなんだけどなぁ…電気代勿体無い……」
なんて嘆いてる。
ま、私には関係無いけどー♪
【解説】
語り手こそが連続殺人鬼である
『ヤドカリ』である。
『相変わらず重いなぁ…(笑)』
というのは、
家に侵入したり人を殺すための道具が
たくさん詰まっているからか?
『飛びっ斬りのサプライズ』
というのは変換ミスではなく、
本当に飛びついて斬ってやろうとしている。
『犯人は自らを"ヤドカリ"と名乗り逃亡中』
語り手自ら『ヤドカリ』と名乗っているみたいだし、
余裕だなぁ…
自ら名乗っているとなると
殺した後に血で
『ヤドカリ』とでも名前を書いているのだろうか?