いつの頃からか、その河川敷には、
初老の男が立っていた。
日差しの強いの夏の日も。
雪のちらつく冬の寒い日も。
雨で増水した時には、
真っ先に役所に知らせた。
堤防は、一部決壊したが、
川沿いの住民の避難が早かったため、
人的被害はなかったそうだ。
川の水が、元の流れに戻るまで、
初老の男は、やはり1人、見守り続けた。
今日も初老の男は、
河川敷を見守り続ける。
数年前、行方不明になった妻の帰りを待つかのように。
【解説】
初老の男は妻を殺して
河川敷に埋めている。
もし、雨で増水して、
表土まで出てきてしまったときには
発見される前に対応できるように
常に監視している。
『雨で増水した時には、
真っ先に役所に知らせた』
のは、常に監視しているのに、
通報しないと反対に怪しまれるため。
こうやって監視している初老の男は
これから死ぬまで監視をすることになるだろうが、
一体どんな気持ちで監視しているのだろうか…