ある日曜日のこと、
私は日課のウォーキングをしに
早朝の河川敷へと向かった。
ここは綺麗に整備された舗装路があり、
ジョギングや散歩をするには持ってこいの場所だ。
その舗装路を下流へと歩いていると、
正面から誰か走ってきた。
黒い長袖長ズボンのスポーツウェアに
青いスニーカーを履いた男だ。
私は彼に軽い挨拶をしたが、
彼は何も返さずに横を走り抜けて行った。
その後、
誰とも会わずに舗装路の下流端に着き、
折り返して上流へ向かい歩いていると、
誰かが私を追い抜いて行った。
黒い長袖長ズボンのスポーツウェアに
青いスニーカーを履いた男だ。
あれ、彼はさっきも上流に向かって走っていったはずじゃ……
気になった私は、
直後に私を追い抜いた白いスポーツウェアの男性を呼び止めて
この事を話した。
すると男性は笑顔でこう答えた。
[彼ね、上流端まで着くと
橋を渡って対岸を下流端まで走ってるんですよ。
だからこっち岸を走る時は常に上流向きなんです。
僕はずっと彼の後ろを走ってるので、間違いないですよ」
それを聞いた私はホッとし、
男性を呼び止めてしまったことを詫びた。
男性は、
気にしないでください、
と手を振って再び走っていった。
【解説】
『僕はずっと彼の後ろを走ってるので、間違いないですよ』
黒いスポーツウェアの男の後ろを、
ずっと白いスポーツウェアの男がついて走っていたのだとしたら、
語り手は一回目に黒いスポーツウェアの男とすれ違ったときも、
白いスポーツウェアの男ともすれ違っていなければならない。
しかし、実際にはすれ違っていない。
『それを聞いた私はホッとし』
とあることから、
語り手は黒いスポーツウェアの男が
幽霊とかそういう類のものかと想像したのかもしれないが、
実は白いスポーツウェアの男の方が幽霊の類であった。
一回目はなぜ姿を隠していたのかはわからないが…
それにしても、
『僕はずっと彼の後ろを走ってるので、間違いないですよ』
という言葉。
この男は家とかにもついてきていたりするのだろうか…