私は死んだ。
気がつくと何もない白い部屋にいた。
壁に書いてある説明を見ると
①ここは天国と地獄と現世の狭間の世界である。
②しばらく待っていれば、
それぞれがどこに行くか壁に表示され、
その後に自動的に送られるので待機すること。
③ここで死んでしまうと魂が消滅してしまうので、
どこへ行くことになっても自暴自棄になって死んだりしないこと。
と書いてあった。
部屋には私の他にAという男性がいた。
Aは地獄から来たと言った。
ささやかな楽しみすら奪われ、
長い間全身を縛りつけられて
身動き一つ取れない状況だったらしく、
もう2度とあんな思いはしたくないと呟いた。
地獄というのは厳しい痛みを与えられる場所と思っていたが、
なるほどそんな地獄もあるのかと変に感心した。
間違ってもそんなところには行きたくない。
自慢ではないが私の素行はよい方だったので、
最悪でも現世に転生ぐらいはできると思いたい。
Aは地獄で罪を浄化し、
現世に復帰するのか、
はたまた天国に招待されるのかと漠然と考えていると、
私の身の上を語る前に、
壁にそれぞれの行き先が表示された。
私:天国
A:地獄
私は、あれ?
と思って目をこすり覗き込んだ。
それがいけなかった。
私とAの魂は消滅した。
【解説】
Aの言っている地獄とは
現世で地獄のような場所にいたということであって、
実際に地獄にいたわけではない。
Aの言う『ささやかな楽しみ』は
人を傷つけたり、殺したりすること。
地獄は刑務所。
刑務所で全身を縛られて身動きが取れない状態となると、
近づいてきた看守に手をかけようとしたか、
自分自身を傷つけて自殺未遂を繰り返していたかだろう。
身動き一つ取れない状況であったのであれば、
自分のことを傷つけることもまた
『ささやかな楽しみ』であったと思われる。
だから、身動き一つ取れない状態にまで
拘束されていた。
『私とAの魂は消滅した』のは
語り手が隙を見せたために
Aの最後の楽しみとされ
『天国と地獄と現世の狭間の世界』で殺されてしまったため。
Aも消滅したのは
地獄に行くことに絶望して
A自身も自殺したからだろう。
…こういう話を読むと
死んだ後ってどうなるんだろうか?
と考えてしまうが、
いくら考えても答えが出ないことである。
はたして、死んでしまったら
どうなってしまうのだろうか…