『次の者、生きている間にした事を述べよ』
「私は定年まで、
バス運転手を無事故で貫き通しました」
『なんという悪業だ!地獄に連れていけ』
「そ、そんな!」
『次、お前のした事を述べよ』
「私はささやかながら、
植林に貢献しました」
『素晴らしい。
天国に連れていきなさい。
次の者、述べよ』
「俺は、戦地で多くの敵兵を殺しました」
『いい行いだ。この者も天国行きだ。次』
「僕は医者として多くの人命救助に関わりました」
『これ以上ない悪業だな。
文句なく地獄行きだ』
「どうしてですか!
僕の行為はどう考えても善行じゃないですか!」
『うるさい。早く連れていけ。次だ』
「俺は通り魔として名を売るため、
たくさんの人間を無差別に殺した」
『よろしい、天国行きにしよう』
「神よ、ひとつ聞いてもいいか?」
『なんだ?』
「なぜ人を助けた前の者は地獄行きで、
人を殺した俺は天国行きなんだ?」
『お前は人という物差しで善悪を見ているのだろう?
だが神にとっての善悪は、別の物なのだよ』
「はあ……」
『さぁ、もう行きなさい。
次の者、生きている間にした事を述べよ』
【解説】
神は地球の視点から善悪を測っていた。
地球にとって一番害になるのは人間であるため、
その人間を減らした者は天国行き、
環境を汚す行為や人間を生き永らえさせる行為をした者は
地獄に落とされた。
人を殺してはいけないというのは
あくまでも人間の善悪。
人間以外の視点で見ると、
ほとんどの面で悪とみなされてしまいそうな気がする。