俺が自宅の換気扇の下で煙草を吸っていると、
その当時付き合っていた彼女がニコニコしながら近づいてきて言った。
「一本ちょうだい」
その子は精神的に少しおかしい子で奇行も多く、俺は別れを考えていた。
今日、自宅に呼んだのも別れ話を切り出すためだ。
そんな俺の思惑とは裏腹に彼女はニコニコと幸せそうに笑っている。
「一本ちょうだい」
俺はいいよと煙草を一本差し出す。
すると彼女は首を横にブルブルと振り、満面の笑みで俺の頭を指差した。
「髪の毛。使うから。」
【解説】
『髪の毛。使うから。』
なんて言われたら、
呪術的なものを思い浮かべてしまう。
私の場合は丑の刻参りが
一番最初に思い浮かぶ。
語り手は別れ話を切り出そうとしていたため、
なおさら、
「髪の毛を渡したら、別れた後呪い殺されるかも…」
なんて思ったのではないかと思う。
なので、髪の毛を渡すことは
絶対にしなかっただろう。
髪の毛を手に入れるためなら、
手段を選ばなそうな雰囲気も感じるが…
とはいえ、もしかしたらこの彼女は、
「縁結び」のために
髪の毛を使おうとしていた可能性もある。
語り手が最近冷たいから、
そういうものに頼ったら
きっとまた優しくなってくれる、
などと考えて満面の笑みをしていたのかもしれない。
『その当時付き合っていた彼女』という記載から、
呪われることもなかったし、
縁結びをしていたとしても
効果がなかったのだろうが…
正直この後どんな別れ話をしたのか
気になってしまうのだが…
ちゃんとこの日に別れ話を切り出せたのだろうか…