私と奥さんは恋人関係である。
しかし、普通の恋人ではない。
いや、今の世の中ではこんなこと普通かもしれない。
奥さんは不倫しているのだ。
私は人妻が好きであるし、
奥さんも夫に飽きてきている、
というので利害が一致した。
最初はただ本当に肌を重ねあうだけの関係だった。
だが次第に奥さんの方がそれ以上の関係を望んできたのだ。
私は正直どうでも良かった。
だからまぁ適当に了承して今の関係になったのだが…。
めんどくさくなってきた。
彼女は何かとおせっかいをかけてきた。
私の夫にでもなった気分なのか。
だから私は一週間前についに奥さんに言った。
「もうこんな曖昧な関係はやめにしましょう。
あなたは旦那さんだけを愛してください」
奥さんはひどく暴れた。
なんなのだ…。
女とはこんなめんどくさいものなのか、
なんて思った。
だが一通り散らかすと、
虚ろな目でぶつぶつ言いながらどこかへ出て行った。
今日であれから2週間だ。
諦めてくれたのか?
すこし酷かったかもな…。
そんなことを考えていると誰か家に来た。
まさか、と思う。
奥さんだった。
やつれているがニコニコ微笑んでいる。
「…奥さん。旦那さんは…?」
「大丈夫よ。話は付けてきたつもりだから」
「しかし…」
「もう口出ししないってさ。
だから、ね?
別れるなんて言わないで…」
奥さんの目には涙が浮かんでいる。
ここまで愛されていたのかと驚く。
少し反省する。
「奥さん。すいません。
行き着くところまで行きましょう…」
奥さんは満面の笑みを浮かべる。
これで良かったのだ…と安心する。
「じゃあ、ご飯作ってあげるわ。
どうせ私がいない間は弁当だったでしょ?」
奥さんは調理に取り掛かる。
それにしても、
自分の妻の不倫を許すような夫がいるのか?
と改めて不信に思う。
いや、しかし…
考えはループする。
「出来たわよ」
カレーがたっぷり盛られ私の前に出される。
一度考えるのはやめよう。
今、私と奥さんが幸せになればそれで…。
そう考える。
それにしても今日のカレーの具。
妙に多いな…。
【解説】
カレーの具は奥さんの旦那さん。
語り手が考えているとおり、
奥さんの不倫を許したわけではなく、
それで殺されてしまったのだろう。
知らないうちに人肉を食べさせられる語り手…
知らぬが仏…か。