「ママー、お散歩行きたい!」
麻衣が何度も私にねだるので、
仕方なく出掛けることにしました。
遊具の事故で一ヶ月前まで入院していたというのに、
今ではすっかり元気なようです。
お決まりの道を一緒に回りました。
こうして歩くのは久しぶりです。
ただ一つ、
いつも友達の家に寄って帰る麻衣が
見向きもせずに通り過ぎてしまったのは気になりました。
「今日は○○ちゃんの家に寄らないの?」
「いい!走ろ」
突然走り出されると、
追いつくのに一苦労。
手を離しそうになります。
自宅の前まで来ると、
どこかのおばさんが麻衣を可愛がってくれました。
「可愛いねえ。お名前は?」
「ほら、どうしたの?お名前言って」
麻衣が名前を言っているのに、
おばさんは怪訝な顔をしてどこかへ去ってしまいました。
「…麻衣、お家に入ろうか」
「うん!」
楽しい日々が続きそうです。
【解説】
話の中の麻衣は犬である。
麻衣の言葉は語り手による妄想か、
はたまた実際に犬の言葉を理解できるのか…
『遊具の事故で一ヶ月前まで入院していたというのに』
おそらく本当の麻衣は
この事故によって死んでしまったのだろう。
そして、語り手はその辛さから逃げるために
頭の中で犬を麻衣に変換させた。
語り手が犬に
『ほら、どうしたの?お名前言って』
と言っている姿を見て
『おばさんは怪訝な顔をしてどこかへ去ってしまいました』
このまま妄想を見たまま暮らしていくのが良いのか、
それとも現実を見るべきなのか…
どちらが良いのかは正直分からない…