「あら、髪ばっさり切ってきたのねぇ!
いいじゃない?似合ってるわよ♪」
夏子は、
胸下まであった髪の毛を美容院でばっさり切って帰り、
それを母に得意気に見せた。
「イメチェンイメチェン♪」
そう言いながら夏子は、
2階の自分の部屋に上がっていった。
夏子の机の上には、
1年前に事故で亡くした妹の夏美の遺影が置いてある。
夏美は、
いつも夏子におんぶをしてもらい、
甘えていた。
黒く艶のある長い髪に、
色白の綺麗な肌、綺麗な目。
夏子は、いつどんな時も夏美を可愛がっていた。
「またあの時みたいに、甘えてよ…」
夏子は少し震えた声で呟いた。
すると、遺影の夏美が、
少し微笑んだような気がした。
「夏子~!ご飯よー」
下から母の声がした。
夏子は急いで下におり、
食事をしながら遺影の事を母に話した。
「きっと夏美が夏子に応えたのねぇ~♪
夏美は本当…いい子だったっ…」
母は涙混じりに言葉が詰まった。
「お風呂湧いてあるから、入っておいで」
涙を拭って母が言った。
夏子は、食器を片付け、お風呂に入った。
浸かりながら、
夏美が好きだった歌を口ずさんだ。
夏子は髪を洗った。
洗面器まで垂れる黒髪を、ゴシゴシ洗う。
『こんな長い髪だと、シャンプーもそりゃあ減るの早くなるよ~。
ん?にしても今日は艶があるなぁ』
【解説】
語り手は美容院で髪の毛をばっさりと切ったはずなのに、
『洗面器まで垂れる黒髪を、ゴシゴシ洗う』
と髪が伸びている。
妹の夏美が甘えた結果なのかもしれないが、
見た目だけ夏美になったというのは一体…?
艶のある髪を綺麗にしてほしかった、
という甘えなのだろうか?
これからずっと夏美のままというのも恐ろしいが、
これにより、あとあと身体戻ったことによって
結局夏子の身体ははお風呂に入らない状態と同じだった、
というのもまた恐ろしい。