あるところに作曲家の男がいた。
彼は作曲家としての実力は十分だが、
神経質なところがあった。
静かな環境でないと、
集中して曲を作ることができないのである。
家の中を妻や子が歩く音、笑い声、食器を洗う音、テレビの効果音…
作曲中の彼には全てが雑音に聞こえた。
耐えかねた彼は、作曲用に、
防音設備の施された部屋を増設した。
これでやっと曲が作れる…
そう思い、
彼はその部屋で作業を始めようとした。
その時、どこかから音が聞こえてくることに気付いた。
防音設備は完璧なハズなのに、どうして…?
訝しんだ彼は、辺りを見渡した。
しばらくして、彼は気付いた。
ああ、なんだ。
そこか…
翌日、丸一日部屋から出てこなかった彼を心配して、妻が部屋に入った。
椅子に座った彼の胸にはボールペンが突き刺さっていた。
その顔は、実に満足そうであった。
【解説】
作曲家は自分の鼓動がうるさかったので、
心臓をひと突きした。
神経質すぎるのも困りものである…。