怖がりの人間に限って、
怖いことを想像するのが得意だ。
自分で考えた怖い状況に自分でおびえまくる、という、
他の人間からするとバカみたいなことを、
毎日のようにしている。
そして私は、
それのさらに上をいく想像力…
いや、もはや妄想力ともいえるものを持っている。
自分が怖いと思ったことが、
現実世界に映し出されてしまうのだ。
小さい頃は、現実と想像、
もとい妄想の区別がつかなかったが、
最近ではすっかり慣れて、
鏡にお化けのようなモノが映っても、
ほとんど動じなくなった。
怖くない、これは妄想だ、と意識すれば、
次の瞬間には何もいなくなるのが分かっているからだ。
まあ、今までにないパターンの妄想がくると、
多少驚きはするけれど。
今日も朝から、
洗面所の鏡にぼやけた顔が映っていた。
仕事に行く準備をしていると、
かばんの中から手が生えてきた。
まあ、よくあることだ。
家を出ると、
電柱の後ろに刃物を持った男がいた。
あっ、時間がないから急がなきゃ。
仕事でパソコンに向かっていると、
血まみれの顔が画面に現れた。
最近は毎日これだ。
一休みして昼食を食べていると、
食べていたチキンに足が生えた。
ちょっとコミカル。
トイレに行くと、
便器の中から頭が突き出ていた。
迷惑だと思っていたら、
すぐに消えた。
帰りの電車がトンネルに差し掛かったら、
窓に大量の幽霊が映っていた。
しばらく見ていたら、
普通の人間に戻った。
家の前にくると、
電柱の裏に刃物を持った男がいた。
全く、妄想だらけで疲れる。
ドアを開けると、
闇の中から、たくさんの目が私を見つめていた。
電気を付けたら、すぐに消えた。
毎日こんな調子だから、
普通の人が見たら失神しそうなものを見ても、
最近ではほとんど気にしない。
精神的に疲れはするけど。
ん?
でも今日は、何かおかしかったような…?
まあ、いっか♪
疲れたし、もう寝よう。
【解説】
『家を出ると、電柱の後ろに刃物を持った男がいた』
『家の前にくると、電柱の裏に刃物を持った男がいた』
一日中いたこの男は妄想ではなく、本物である。
語り手を狙っている…?
その割には行動を起こしてこないが…
一日中刃物を持って電柱のところにいたら怪しむものだけど、
妄想だと思っている語り手は何も反応しない。
そういう惹かれて友達になりたい…とか?
刃物は護身用?
行動理由が気になってしまう…