随分と遅くなったなぁ…。
残業が終わってからの遅すぎる夕飯を済ませた為、
もう、日付が変わっていた。
真夜中の暗い道を、チカチカと照らす光に顔を上げた。
タクシー?こんな時間に?
ああ、ここの主人も仕事で遅くなったのか。
と思ったところで、
その主人が玄関から出てきてタクシーへと乗り込んだ。
主人を乗せたタクシーはすぐに出発した。
すれ違い様、タクシーの違和感に気付き、
二度見しながらタクシーを目で追った。
暗い道を遠ざかっていくタクシーのランプで、
背中に冷たい汗が流れた。
翌日、その家はちょっとした騒ぎになっており、
数日後には黒い人だかりができていた。
「やっぱり…」
鯨幕を見ながら、無意識につぶやいていた。
【解説】
日本のタクシーには
「個人タクシー」というものがあるが、
今回の場合は
「故人タクシー」であった。
そのため、
『主人を乗せたタクシーはすぐに出発した』
タクシーが行き先を聞かず出発したのは、
「故人タクシー」だったために
行き先が決まっていたから。
なので、
『翌日、その家はちょっとした騒ぎになって』
というのは、
ご主人が急に亡くなってしまったことによる混乱。
『数日後には黒い人だかりができていた』
『鯨幕』
というのは、
「お葬式」を示している。
語り手は
「故人タクシー」に乗り込んだご主人を見ていたため、
お葬式をやっていたことに
『やっぱり…』とつぶやいた