今朝、妻が朝食を作る音で目覚めて、
ベッドから起きたんだ。
それで、「おはよ~」っていいながら、
二階の寝室から一階のリビングに入ったんだ。
そしたらさ、いつもなら「おっはー!」って言い返してくれるほど
元気な妻なのに、俺を無視してひたすら台所で包丁を動かしてた。
俺は、はっはーんと思った。
そういや昨夜、妻の浮気を暴いて、激しく言い争ったんだ。
それで今日、妻はバツが悪くて俺をシカトしてるのか。
俺は早く、その事は水に流したいのに。
妻(恵子)に「けいこ~水くれ!」って言っても恵子はおれを無視。
何だよ、人が折角この気まずい雰囲気をこわそうと思ったのに。
ふと時計を見たら、もうそろそろ会社にいく準備をする時間。
俺はそそくさと二階で着替えをすませ、また一階におりた。
その間、妻は俺に全く話しかけてこない。
俺もいい加減腹がたち、
食卓には俺の分のご飯がちゃんと用意してあったが無視した。
俺は日課の、出社するついでのゴミ出しをするため、
台所の横にある黒色のゴミ袋を掴んだ。
そのなかは異様に重く、
いつもなら東京都指定の半透明のゴミ袋のハズだったが、
今日は黒色の中身が全く見えないゴミ袋だった。
そのゴミ袋はあと五個ぐらいあったが、会社に遅刻しそうだっため、
一つだけ持って俺は玄関にいった。
知らない男物の靴もあったが、時間に急かされいたため、
たいして気にもせず、俺は集合住宅の階段をかけおりた。
住宅の真ん前にある、ゴミすてばに勢いよく怒りを込め、
ゴミ袋をなげ捨てると、ヒラリと結びめがとれた。
俺はそれをみて愕然とした―。
【解説】
語り手は昨夜殺されてしまい、
幽霊となってしまったが、
語り手はそのことに気付いていない。
そして、幽霊となってしまったため、
妻も気付いていない。
『ゴミ袋をなげ捨てると、ヒラリと結びめがとれた。
俺はそれをみて愕然とした―。』
これは自分の死体を目の当たりにしてしまったために、
愕然としてしまった。
語り手の死体であれば、
『そのなかは異様に重く』
『黒色の中身が全く見えないゴミ袋』
『そのゴミ袋はあと五個ぐらいあった』
というのも当然の話になるだろう。
『知らない男物の靴もあったが』
とのことなので、
妻が語り手を殺した後に浮気相手を呼んだか、
もしくは浮気相手と一緒に殺したか。
少なくとも浮気相手は
語り手の身体を解体することに協力しただろう。
ちなみに
『食卓には俺の分のご飯がちゃんと用意してあった』
というのはもちろん浮気相手のもの。
『俺を無視してひたすら台所で包丁を動かしてた』
というのは、まだ語り手の身体を解体していたから、
だと思ったのだが、
朝ご飯の用意がしてあったのだから、
朝ご飯を作っていたのだろう。
…と思ったのだが、
すでに用意が出来ているのに包丁など使うだろうか?
自分の分を作るにしても一緒に作るはずなので、
包丁を使う必要はないはず。
となると、やはりまだ解体していたということか…。
人の身体を解体し、
その後にきちんと朝ご飯を食べようとする精神の強さ…
に加え、作った後もさらに解体作業を続けている。
妻はものすごい強いメンタルの持ち主なのではないだろうか…
人の解体作業なんてしたら、
ご飯なんて食べる気にならないと思うのだが…。
地味に怖いのが、
語り手がすでに死んでいるのにゴミを持っていけたこと。
周りから見れば完全にホラー。
いや、幽霊だからホラーなんだけどさ。
ゴミ袋がフワフワを浮いているのを見て、
そのゴミ袋が投げ捨てられたかと思うと、
人の死体が出てきた、なんて現場を見たら
発狂してしまいそうである。
この現場を見ている人がいないと信じたい。