昨日、上司が大事にしている壷を割ってしまった。
かなり高価なものらしく意気消沈した帰り道、
怪しい男に声をかけられた。
砂時計を買わないか、ということだ。
視して通り過ぎようとしたら、
男は突然ハサミで俺のネクタイを切った。
呆然としていると、男は笑いながら砂時計をひっくり返した。
すると、俺のネクタイがピタリとくっつき元に戻ったのだ。
これは世界に1つしかない、
壊れたものを3回だけ元に戻せる砂時計なのだそうだ。
ただ、跡形も無くなったものは直せないから注意するようにと言われた。
俺は迷わずそれを買った。
翌日俺は、早めに出勤して割れた壷の前で砂時計をひっくり返した。
すると、壷がカチャカチャと組みあがり元に戻ったのだ。
上司に、同じ壷を用意したと報告すると、
少し驚いて「ご苦労。」と返された。
その返事に腹が立った俺は、
ロッカールームで上司のロッカーを思いっきり蹴っ飛ばした。
我に返って砂時計をひっくり返すと、
ロッカーのへこみは元に戻った。
使えるのはあと1回。
いっそストレス解消に使いたいと思い、
上司のロッカーを開けた。
中には上司が大事にしている背広が掛けてあった。
ライターで火をつけようと思ったのだが、
ビリビリに引き裂くに留めた。
「跡形も無くなったものは直せない」
ということを思い出したのだ。
元に戻せなくなったら、
今度は怒られるだけではすまないところだった。
【解説】
『壊れたものを3回だけ元に戻せる』
つまり、3回しか直らない。
『これは世界に1つしかない』
と言っているため、新しいものをもらったわけでもない。
その3回は
『俺のネクタイがピタリとくっつき元に戻った』
『壷がカチャカチャと組みあがり元に戻った』
『ロッカーのへこみは元に戻った』
で使い切ってしまった。
そのため、
『上司が大事にしている背広』を
『ビリビリに引き裂く』ことを行ったが、
これはもう元に戻らない。
『怒られるだけではすまない』
と思っているように、
この語り手はただでは済まないだろう…。
それにしても、この素晴らしい砂時計。
果たしていくらで購入したのだろうか…。
そこが少し気になってしまうところである。