俺は颯太、高校3年生。
野球部に入っていて、
先日10番の背番号を貰った。
大会は1週間後だ。
レギュラーになれなかった、
しかも同級生ならまだしも、
1年にレギュラーをとられたのだ。
俺は悔しくてたまらなかった。
あのとき、エラーしなければ、打っとけば、もっと練習しとけば…
と後悔しながら歩いていると、
『後悔しているそこのアナタ必見!!』
という看板を見つけた。
俺は引き寄せられた。
「こんな店あったっけ?」
ボロくて、いかにも胡散臭い。
しかし、あのときの俺にはそんなことは関係無かった。
なんの躊躇も無く店に入ると、
制服を着た気の弱そうな男性が立っていた。
「看板を見たんですが…」
「そうですか、
この店は過去に戻れる能力を授ける店です。
ただ、過去に戻ると言っても将来の人生を切り離して、
過去にもってくるだけなのですが…」
「それはどういう意味ですか?」
「まぁ簡単に言うと、
寿命を縮めて、過去に戻る能力を授ける店です。
ただ、過去に戻るのにかなりの負担がかかりますので、
20倍の寿命を失いますが…」
「そうですか…」
20倍寿命を縮めると聞いて、悩んだ。
すると、店員が言った。
「ご安心下さい。
当店にはノーマルプランの他にモドホと言うプランが有ります」
「モドホ?」
「モドホとは、戻り放題の略で、
1週間に能力をどれだけ使っても、
寿命は7日分以上は削れません。
例えば、1週間に合計1年戻ったとして、
寿命は140日しか削られないということになります」
「なるほど!!じゃあ俺それに…」
「誰がタダだと言いましたか?
ノーマルプランは無料ですが、
モドホですと、1週間につき100万円になりますが…」
「ひゃ、100万…」
「あっ、でも運がいいですね颯太さん。
今はお試しキャンペーン中ですので
1週間無料でした。
但し、1週間を過ぎても、
こちらに中止報告なさらない場合、
強制的にノーマルプランの方に変更になります」
「わかりました」
次の日から、
俺は夢の様な日が続いた。
いくらエラーしても数分戻せば、やり直せる。
毎日ある小テストだって毎回満点だ。
練習中、
アドバイスされれば、
戻ってその通りにやる。
その結果俺は
レギュラーになることが出来た。
大会は自分一人の力だけではどうにも出来なかったが、
俺は打って守ってと完璧だった。
その後の学校生活でも成績優秀、
大学も超難関大学に進学が決まった。
そして、卒業式。
これで、
みんなとお別れだと考えると、
とても悲しい。
たくさん後悔もある。
そこで、
俺は入学からやり直すことにした。
【解説】
『今はお試しキャンペーン中ですので
1週間無料でした。
1週間を過ぎても、
こちらに中止報告なさらない場合、
強制的にノーマルプランの方に変更になります』
とのこと。
つまり、大会までの1週間は使い放題で、
それ以降はノーマルプランに移行していた。
そのため、語り手は
寿命を削りながら過去に戻っていた。
しかし、語り手からすると
戻ることが当たり前になっていて
中止するなんてことは忘れていたのだろう。
もしかしたら、
「元から持っていた能力」
と勘違いするくらい使っていたのかもしれない。
そんな語り手は
卒業から入学に戻ろうとしている。
3年×20=60年
何度も能力を使っている語り手からすると
この60年という寿命に耐えられず、
死んでしまうことだろう…。
20倍の寿命を使うのは恐ろしいことだけど、
一度使ってしまうとクセになってしまいそうなのが
さらに恐ろしいところである…。