「この村にはな、伝説の血筋があるんじゃよ。
村人ひとりの寿命を一日分だけ他の村人に移すことができるんじゃ。
だから、婆ちゃんの寿命も一日分、ふみちゃんに分けてあげるよ…
婆ちゃんの一日をふみちゃんが生きるんよ、いいか。
婆ちゃんはそれで幸せじゃよ。可愛い孫がわしの一日を生きるんじゃ…」
急に思い出した。小さい頃の記憶だった。
私は先天性の重病を患っているので、
お婆ちゃんが元気づけようと作り話をしたのだろう。
早く病気を治して、お婆ちゃんやお母さんやお父さんに会いたい。
私は村の小さな病院に入院しているのだ。
「ふみちゃん、お熱はかるわよー」看護婦が入ってきた。
看護師は私の腋の下に体温計を差し込んだ。
私は昨日、衝動的に自殺未遂を起こしたため、
両手足をベルトのようなもので縛られている。
体温計を抜き取ったその時、看護婦は突然バタリと倒れた。
「どうしたの看護婦さん」私は声をかけたがうんともすんとも言わない。
私は大声で他の看護婦を呼んだ。だが誰も来ない。どうしたっていうんだろう。
不意に窓に目をやると、とんでもない異変が起きているのに気付いた。
道を歩いている通行人がばたばたと倒れていくのだ。ドミノ倒しのように。
私はパニックになった。手足は拘束されているので動くこともできない。
その時、テレビから大津波警報が流れた。
【解説】
『この村にはな、伝説の血筋があるんじゃよ。
村人ひとりの寿命を一日分だけ他の村人に移すことができるんじゃ。』
伝説の血筋ができることは、
「村人ひとりの寿命を一日分だけ他の村人に移すこと」
これは間違えられて伝えられていたのではないだろうか?
「村人ひとりの寿命を一日分だけ他の村人に移すこと」
というと、伝説の血筋が『自ら』自分の寿命を差し出すことになる。
しかし、
『体温計を抜き取ったその時、看護婦は突然バタリと倒れた。』
『道を歩いている通行人がばたばたと倒れていくのだ』
これはつまり村人が『自ら』寿命を差し出しているとは言えない。
語り手が『伝説の血筋』であり、
他の村人から『勝手に寿命を奪い取っている』と
考えられる。
無意識だからこそ理解できない状況に
困惑してしまう語り手。
『その時、テレビから大津波警報が流れた。』
から、これから自分のところに
大きな津波がきて飲み込まれてしまうだろう。
しかし、他の村人から寿命をもらっているため、
津波に飲み込まれても死ぬことができず、
もがき苦しむこととなり。
いや、
『手足は拘束されているので動くこともできない。』
から、もがくこともできず、
それこそ地獄の時間を過ごすこととなるだろう。