私は、この入院施設もある精神科のクリニックの院長だ。
今は、診療を他の医師に任せているが、
時折、非常勤として、
昔から受け持っている患者の診療は行っている。
今日の患者は、
緑色の宇宙人に連れ去られるという妄想の持ち主だ。
なかなか薬が効かず、困っている。
今日も、
緑色の宇宙人とどうしたこうしたという話をするのだろうな…。
投薬とカウンセリングで、
少しずつ改善に向かっているハズなのだが…
「先生、こんにちは」
「こんにちは。調子はいかがですか?
緑色の宇宙人とやらは、まだ現れますか?」
「それが、先生。
緑色の宇宙人なんてモノは、
私の間違いでしたよ。
そんなモノがいるハズありませんもんね」
やっと、薬の効果が現れたか。
長かったが、
やっと完治したようだな…。
これで、
私の肩の荷も降りる…。
他にも、
悩み事は無いか等、
色々な世間話をしながら、
確認していくが、
「緑色の宇宙人というのは、
私の幻覚…
私は精神的に病気だったのですね」
としっかり自己認識とみられる発言があった。
「どうやら、完治。と見なして、良いようですね。
長い間、通院お疲れ様でした。
また何かございましたら、
お気軽にお越し下さいね。
定期的な通院は、
本日で終了して良さそうです」
患者は、
嬉しそうに何度もお辞儀しながら、
「ホントですか、先生?
良かった!
長いことお世話になりました」
そして、
椅子から立ち上がりながら、
言った。
「そうそう、
そういえば、この間、
青色の宇宙人を見ましてね…」
「……えっと、もう一度、
座ってもらえるかな?」
―今日の診療も終わった…。
治ったように見えて、
なかなか完治にまで至らないのが、
この精神的疾患という病の恐ろしさだ…。
根気よく付き合っていかねばならない……。
「院長~?
院長ー?
あっ。こちらにいらしたんですか?
もうご飯の時間ですよ。
お部屋に戻りましょうね」
「あぁ、難しい患者がいてね。
時間が掛かってしまったよ。
看護婦さん、今日のご飯は、何ですかねぇ?」
【解説】
『もうご飯の時間ですよ。
お部屋に戻りましょうね』
院長が時間を指定されてご飯を食べるのはおかしい。
さらに、看護婦さんから
『お部屋に戻りましょうね』
なんていう口調で指示されるのもおかしい。
つまり、語り手は
自分のことを院長を思って診察している
精神科の入院患者である。
精神科医は鬱な話をよく聞かされるから、
精神科医自体が精神病にかかってしまうことはよくある…
と聞いたことがある。
看護婦さんから『院長』なんて呼ばれているし、
実は元々本当に院長だったりするのだろうか…?
しかし、元院長だったら
さすがに
『お部屋に戻りましょうね』
なんて話し方はしないか…