ある殺人事件の裁判。
それはきわめつきの難しいものだった。
依頼主側には、
なにひとつ有利な点がなかったのだ。
それでも弁護士は
秘術のかぎりをつくして闘った。
その結果、
陪審員は何時間も議論を重ね、
とうとう無罪、
つまり弁護士側の勝訴を宣告したのだった。
弁護士はさっそく彼の依頼主に電報を打った。
『セイギ ハ カッタ』
すぐに返電が届いた。
『タダ チニ コウソ セヨ』
【解説】
『セイギ ハ カッタ』
自分は負けたと思い、控訴する旨を送った。
依頼人は自分が正義ではなく、
検察側が正義だと思ったため、
依頼主が犯人。
有利な点が何一つなかったにも関わらず、
勝訴を勝ち取るこの弁護士がすごい。
しかし、
弁護士の腕によって裁判の結果が変わると考えると
それはそれで恐ろしいものだと思ってしまう。