薄れ行く意識の中で僅かに目を開けると、
医師と看護師が心電図らしきモニターを見ていた。
ああ、俺は交通事故で病院に運ばれたんだな…。
全身麻酔ってやつか…。
「ちょっと逆光ですね」
「たしかに」
そう、光が眩しくて目が開けられないんだよ…。
「先生、おしめ…」
「まだいいだろう」
ああ、俺はそういう状態なのか…。
「成り行き…ですね」
「そうだな」
そうか、そんなに悪いのか…。
あとは先生に任せるだけ…だ…な…。
「先生、患者さんの心臓が止まってます」
「鯨幕だな…」
【解説】
医師と看護師は手術そっちのけで株取引をしていた。
見ていたのは心電図ではなく、株価チャート。
逆光は「逆行」のことであり、他に
押し目、成り行き、鯨幕は証券用語として使われている。
つまり、用語だけを拾ってみると
「株式相場全体が下がってきているのに、
医師たちが見ていた銘柄だけが反対に値上がりしていて、
押し目を待ち、成り行きで買ったら予想通り上がったので
そこで手仕舞いした」
ということだろう。
さすがに手術するような場に
株取引ができるようなものを持ち込むことができないと思うので、
このようなことはさすがにない・・・と信じたいが、
世の中「まさか!」と思うことまでやらかしてしまうので、
絶対にないとは言い切れないだろう・・・。
とりあえず、せめてきちんと手術だけはしてほしいものである。