四畳半の寂れたアパート。
「あーデスノート欲しいなぁ」
持っていた漫画を閉じて彼は呟いた。殺したい奴ならたくさんいる。
ムカつく上司に生意気な後輩。高校の時俺をイジメた不良達。それに・・・
彼は考えるのを止めた。
「バカバカしい。悪魔なんているわけないか・・」
そう呟いた彼の前に背広姿の男が立っていた。
「な、なんだお前!どこから入ったんだ!」
背広姿の男は顔色を変えず答えた
「悪魔です」
「へっ!??」
彼は目を白黒させ、言葉にならない声をあげた。
悪魔と名乗る男は、表情を変えないまま言った。
「消したい人がいるんでしょう?ただし条件があります。
まず血の繋がった人は消せません。消せるのは3日に1人だけです。
そして報酬として、1人消す度にあなたの寿命を一年間頂きます。いかがです?」
何とも言えない迫力に、彼はただ無言で頷いた。
「じゃぁ決まりですね。消したい人はこのノートに書いて下さい。それではまた」
悪魔は音もなく姿を消した。
数分経っただろうか。彼は冷静さを取り戻し、悪魔が置いていったノートに手を伸ばした。
JISマークの入った普通のノートだ。
「これがデスノート?いや、JISノートか」
試しに、彼は嫌味な上司Tの名前を書いてみた。
2日が経ち、3日が経ち、1ヶ月が経ち、Tは死ぬどころか、風邪さえひきそうにない。
「こりゃ騙されたかな・・・」
そんな事を考えながら半年が過ぎたある日、彼は交差点で信号無視のトラックに跳ねられた。
全身に走る痛みと薄れて行く意識の中で、彼は考えていた。
「そういう事か・・・」
悪魔は確かに存在したようだ。
【解説】
『半年が過ぎたある日、彼は交差点で信号無視のトラックに跳ねられた』
元々『彼』は半年しか寿命がなかったため、
寿命の一年間を支払うことができず、
結果上司Tに何も起こらなかった。