そう、あれは2月半ばのとても寒い日だった。
ミステリー作家として有名だった枕田巳之助が自宅で絞殺死体となって発見された。
巳之助の咽には、くっきりと犯人のものと思われる指の跡が残っていた。
当時、自宅に居たのは枕田の息子である正和、一人だけである。
警察に通報したのは正和だった。
外から何者かが侵入した痕跡はいっさいなかった。
警察は当初、正和に疑いの目を向けた。
正和の様子がおかしかったからだ。
しかし正和には犯行は不可能なんだ。
彼は幼い頃の事故で右腕が無かったんだ。
彼に首を絞めることは不可能なのだ。
結局犯人はわからずじまいで、あの事件ももう時効か・・・
昔の事件の思いにふける警部に部下が声をかける
「お父上を殺した犯人が挙がらず残念です。枕田警部どの」
【解説】
『当時、自宅に居たのは枕田の息子である正和、一人だけである。』
は
「正和だけいた」
ということではなく、
「正和と一人(かずと?かずひと?)だけである」
と息子が二人いた。
正和には犯行が無理だったが、
一人には犯行が可能だった。
最後に出てきた『枕田警部』はおそらくこの一人。
父を殺したにも関わらず捕まることなく
ようやく時効になった昔の事件を思い返していた。
叙述トリックとはいえ…
一人が疑われることがなかったのは一体…?