「ただいま」
実家の玄関を開けながら、
私は力無い声で挨拶した。
かれこれ二年近くこの家を離れ、
ずっと都会で一人暮らしをしていた私にとっては、
久し振りの家族との再会である。
けれど、
両親と半ば喧嘩別れするような形でここを飛び出したので、
ずっと連絡も取っていなかった。
もちろん今日こうして突然戻って来る事も伝えていない。
私の味方をしてくれていた弟も、
ある日を境にメールどころか電話さえも繋がらなくなっていた。
玄関口でふと足元に目を向けると、
父の革靴と母のヒールが並んでいた。
なんだ、二人とも家に居るじゃない。
まだ私が家出した事を怒っているのだろうか……
今日こそは面と向き合って謝らないとな……
靴を脱ぐのに、
姿勢を支えるため手を置いた靴箱には、
かなり埃が積もっていた。
【解説】
連絡が取れなくなった弟の靴がなく、
父母の靴がある。
つまり、
家には父母は外に出ていない。
靴箱に積もった埃からすると
父母はすでに亡くなっているだろう。
犯人は連絡が取れなくなった弟。
すでに捕まったのか
それともまだ逃げているのかはわからない。
語り手が喧嘩をして家を飛び出したことに怒りを感じ
その怒りが頂点まで達した犯行だったりするのだろうか。
それだったら、
語り手を間違った形で想ってしまった
悲しい事件である…