この場所に立つと、余を一心に見つめる民たちの顔がよく見える。
側に控えた大臣が、詔を読み上げはじめた。
余は帝として、民のために尽くしてきたつもりだ。
親とはぐれて泣きじゃくる幼子を城にかくまい、
水を飲ませて落ち着かせた事がある。
ある時は、民を守る騎士に、褒美として剣を授けた。
またある時は、貧困にあえぐ乞食に、打ち出の小槌を与えた。
寒空の下、一家総出で働かねばならぬ親子の家に暖かいものを届け、
その場で全員に休暇をくれてやった事もあった。
詔を読み終えた大臣から、民への号令を求められた。
我が国と民に幸あらんことを。そう告げた。
目を閉じると、余が施しを与えた民たちの顔が浮かぶ。
あの幼子。騎士。
乞食。家族たち。
みな一様に笑顔である。
帝よ共に語らわんと言うかのように、手招きを
ぐげ
【解説】
『目を閉じると、余が施しを与えた民たちの顔が浮かぶ』
『帝よ共に語らわんと言うかのように、手招きを』
目を閉じたのに、手招きしているところから、
施しを与えた民たちはすでに死んでいると思われる。
つまり、帝は
幼子に水を飲ませて落ち着かせた=溺死させた
騎士に褒美として剣を授けた=惨殺した
貧困にあえぐ乞食に打ち出の小槌を与えた=撲殺した
親子の家に暖かいものを届け、その場で全員に休暇をくれてやった=放火し焼死させた
ということを行っていた。
最後はクーデターが起こり、
帝は「ぐげ」と殺されてしまった。